29 優男な成金子息、強面貧乏お嬢様に友人を紹介しました(前)
カミラは心配そうにこっちを見た。
「俺らは、ちょっとのんびりしてから行こう。 先方には約束してあるからね」
そうはいっても、カミラは慣れない格好に戸惑っているのか、動きがカチコチになっている。
「緊張しないでも大丈夫だよ。 カミラ」
「でも! ローレンツ様のご友人なんですよね!? 嫌われたりしないか不安です」
「もう事前にカミラがどんな人か言ってあるから大丈夫だよ」
「……」
こればっかりは経験だからな。
まぁ……行くうちに慣れるだろう。
馬車で最初に向かうところは、あの男爵家だ。
「ようこそ、お待ちしておりました」
固い顔でそう答えるのは、アンネリーゼ・ダナー男爵令嬢だ。
もちろん、兄のフレディにも、家に行くことは言ってある。
「お招きありがとう。 例のあれは順調かな?」
「出来る限りやったわよ! ……もう許して。」
「わかったよ。 許そう」
アンネリーゼはホッとした表情をした。
「アンネリーゼ、この方が俺の婚約者、カミラ・アルベルツ子爵令嬢だよ」
「カミラ・アルベルツと申します。」
「アンネリーゼ・ダナーよ。 この前はごめんなさい。
私はこのローレンツの兄のフレディと、このまま行けば結婚予定だから、あなたは義妹になるわ。
階級はこちらが下だけど、お姉様には変わりないからね!」
「アンネリーゼ……」
「はい! アンネリーゼお姉様ですね! 私、姉妹の一番上なので、お姉様が出来るの嬉しいです!」
カミラの満面の笑みを受けたアンネリーゼは、瞬く間に顔が真っ赤になった。
「何よ……何よこの人!! 可愛いじゃないの!! 仲良くしましょう! カミラ!!」
「はい!」
一発で落ちたな。
アンネリーゼを疎むご令嬢は多いから、カミラが妹になるのは却ってよかったかも。
アンネリーゼと別れ、次はカミラが行きたそうな場所へ行く。
馬車を降りて、馬車は俺の商会の馬車置き場に置く。
目的地に近づくと、いいにおいが漂って来た。
「ローレンツ様! まさか……」
「そのまさかだよ」
俺はドアを開けると、たまたま他に客が居なかった。
店主と妻が俺たちを出迎える。
「ようこそ、ローレンツ様」
背筋を伸ばし、出来るだけダンディーな声に勤めようとする幼なじみに、俺は呆れた。
「……2人の時とキャラが違うだろ……ディモ」
「あたしは止めたんだよ! けど、やるって聞かないんだ」
ディモの妻、フランカも呆れ声だ。
「カミラ、彼はこのパン屋の店主のディモ。 彼女はその奥方のフランカだ。
2人とも、俺の平民時代の友人だよ。
ディモ、フランカ。 こちらは俺の婚約者で、カミラ・アルベルツ子爵令嬢だ。」
「ようこそ、このパン屋の店主、ディモと申します」
「妻のフランカでございます。」
「カミラ・アルベルツと申します。 あの、ここは、とても素晴らしく、
形の整ったパンを売っている場所で間違いないでしょうか!?」
「「はい?」」
ディモとフランカの頭に「?」がついた。
「そうだよ。」
俺がそう言うと、カミラはまた目をキラキラ輝かせた顔になって、ディモとフランカに駆け寄った。
「あんな素晴らしいパンを作れる何て天才です!!
私は家で何回やっても不格好になってしまうので、すごく憧れます!!」
こうして、また、犠牲者が増えた。
「カミラ様! うちのパン、全部持ってってくれ!!」
「そんなに褒められるなんて、嬉しいね! こんなこと言ってくれる、お貴族様なんて、珍しいよ!」
2人に気に入ってもらえてなによりだ。
パンは買いたかったが、今日は用があるので、カミラは泣く泣く諦めていた。
前後編では終わらなかったので、次回は中編です。




