28 優男な成金子息、強面貧乏お嬢様にお願いしました
「外にお仕事……ですか?」
「うん、そう。 僕たちもう、婚約しているからね。
みんなにカミラを紹介するために、挨拶周りをしたいんだ。」
俺はまだ、友人達にカミラを紹介出来ずにいた。
なので、仕事として一緒に来てもらうよう頼んだ。
仕事と言った方が、ついて来てもらいやすい。
なぜならその日、カミラは本来侍女として仕事をする日だから。
人によっては情報収集も兼ねているので、仕事というのは間違ってはいない。
そして、この日しか皆の都合がつかなかった。
「朝から夜まで回るから、疲れるかもしれないけど、お願いできるかな?」
「はい。 ……ですが、服が……」
「それなら用意してある。 後、申し訳無いのだけれど、その日の前日、侍女の寝室とは別の部屋で寝て欲しい。」
「え? なぜですか?」
「その日は俺たち男爵一家と朝食をとってもらいたいからさ。 ドレスも着るしね。 広い部屋の方が、侍女達もやりやすいし。」
「え!? 1人で着れますよ!」
「実は俺付きの侍女達、カミラを綺麗にさせたいと躍起なんだ。 うちには女は産まれなかったからね。 女性を飾りつけたいんだってさ。」
それは本当だ。
訪問用のドレスとはいえ、綺麗に着飾ったカミラが見たくて、侍女達にお願いしたら、「「お任せください!」」と俺付きの侍女2人に言われてしまった。
「だから頼むよ。 カミラ」
「……はい」
そして当日。
俺は、カミラが使っている客間に、カミラを迎えに行った。
ノックをして中に入ると、そこには薔薇の精霊がいた。
この世界には精霊がいる。
我がロザリファ王国には、視える人が基本居ないが、視える国の人は精霊に力を借りて、魔法を使うことが可能だ。
この国では、観劇などで度々、精霊と呼ばれる女神のような姿をした女性が登場する。
今のカミラは、その精霊そのものだ。
胸の下に切り替えのあるエンパイアラインのドレス。
淡いローズ色のドレスは、カミラによく似合っていた。
髪はハーフアップに編み込み、控えめな薔薇の髪飾りをつけている。
清楚な大人びた少女が、一輪の極上の薔薇に見えた。
「とても綺麗だ……カミラ」
「そう……ですか?」
「あぁ。 とても似合っている」
「ありがとうございます…ですが、食事前に着なければダメでしょうか? ……汚しそうで」
「大丈夫! 例え汚したとしても、ヴェンデルにもう何着ももらっているから」
「え!?」
カミラのサイズは、ここの使用人になるときに、侍女の制服が合うよう事前に計っていた。
そのサイズ表をヴェンデルに渡し、有無言わせず訪問用ドレスを作らせたのだ。
ヴェンデルは快く受け取り、しかも金を取らないと言って来た。
理由を聞くと、たまにカミラのようなスレンダーな体型のお客様が居るのだが、特に胸は恥ずかしいのか、なかなかサイズを測らせてくれないらしい。
みんな自己申告で言うので、きちんとしたドレスに仕上がらないこともあったのだ。
なのでカミラのサイズ表は、貴重だった。
そして、幾つかサンプルを作り、納得がいくデザインのものだけ、すべてもらうことができたのだ。
『これは新しいデザインが出来たお礼ってことで! デザイナーにも良い刺激になったみたいだし』
『ヴェンデル。 良いのか? こんなに』
『実はこのドレス全部、他の体型のお客様にも合うことが分かったんだ。
切っ掛けをくれたカミラ嬢には、感謝しか無いよ。
あと……カミラ嬢には大事なことを教えてくれた、お礼も入っているんだ。』
そういわれてドレスを8着も受け取った。
「さぁ! みんな待ってるよ。 行こうか?」
カミラの手を取り、男爵一家用の食堂へ連れて行った。
部屋に入ると、皆興味津々でカミラを見た。
「まぁ~!! カミラ、綺麗よ!!」
「訪問着でここまで……」
「これは……綺麗だ」
「よく似合っています。」
家族からも高評価だ。
「そう言ってもらえてよかったです。
ヴェンデル様、こんなに素敵なドレス、ありがとうございます」
「いえいえ! こちらこそ。 おかげで良いものができましたよ」
和やかに談笑しながら、皆で食事を取ったら、俺とカミラ以外は皆、出かけてしまった。