27 優男な成金子息、王族のお客様に会いました
時間が少し戻ります。
カミラが俺のせいで臥せってしまったその日、商会に突然の訪問があった。
「は!? ミーシェの王族が?」
「はい、お断りは……」
「できないな。」
カミラが臥せったその日の訪問とは、あまりにも、タイミングが良すぎた。
あの侍女、やっぱりスパイだったか。
ウェーブがかったピンクの髪に、猫目の少女が、護衛を5人ほど連れて、こちらに歩いて来る。
目には紫色が輝く。
やはり、王女だけあって、ミーシェ国の特徴が色濃く出ている。
ミーシェ国民の特徴は、髪の色や瞳の色が、色彩豊かなところにある。
我が国、ロザリファ王国は、髪色が基本茶色に赤毛、金髪、まれに銀髪くらいだ。
瞳の色は数あるが、ミーシェには劣る。
スパイの侍女は濃紺色の髪を持っていた。
恐らく、彼女の髪色が一番地味だったに違いないが、それでも我が国では目立つ。
目の前に居る少女は、全体的に可愛らしい印象だが、猫目のせいか、小悪魔な雰囲気もかもしだす。
気の強そうな、自信を持った顔で、こちらを微笑んだ。
「突然の訪問、お許しください。」
悪びれも無く言ったのは、ミーシェ国第一王女、クリスティーナだった。
「お初にお目にかかります。 ベック男爵が次男、ローレンツと申します。
このような商会に足をお運び頂き、恐悦至極にございます。」
「こちらこそ、会えて嬉しいわ! けれど、時間がないの。
単刀直入に言わせてもらうわね。 あなた、うちの国に来ない?」
とても、直接的な物言いに、俺は心の中で苦笑した。
「大変光栄なことなのですが、お断りさせて頂きます」
ミーシェ国に行くのに、俺にメリットなど何も無い。
「なぜ? うちの国に来れば、かなり上の爵位も用意できてよ?」
「爵位など、関係ありません。 僕は愛する人がいる、この土地で過ごしたいのでございます。」
「……そんなに子爵令嬢がいいの?」
やっぱり調査済みか。
エルゼとかいう、侍女の情報かな?
「はい! もちろん。 僕の一目惚れですから」
それは本当だ。
彼女から離れるつもりはこれっぽっちも無い。
「……その子爵令嬢も一緒に連れて来なさいよ。
特別に、面倒見てあげるわ」
面倒くさいと顔に書いてある。
14才とはいえ、交渉するには少々幼い。
ただの我がまま王女だな。
「おかまいなく。 僕はこの土地を愛しているのです。」
「……どこがいいのかしら?」
「強いて言うならすべてです。」
「……そう。 期待はずれだったわ」
俺の言葉に、あからさまに不快感を示した。
「どうぞ、お気をつけてお帰りください。
あぁ、宜しければ、こちらをどうぞ。
最近開発したばかりの色の絹の生地でございます」
「まぁ! 素敵! ぜひこれで、ドレスを仕立てたいわ!」
「でしたら、私の弟がやっている商会に、注文を。
新進気鋭の職人達を抱えておりますので、きっと姫を引き立てるドレスを作るかと」
俺は、ヴェンデルの商会の紹介状を渡した。
姫は嬉しそうに受け取り、その場を後にした。
「これで、諦めてくれれば良いんだけどな」
ローレンツは小さくつぶやいた。




