24 強面貧乏お嬢様、優男な成金子息に愛の鞭を叩かれました
「カミラ」
「はい、ユリウスさん」
執事長のユリウスさんから呼び止められた。
「本日、ローレンツ様が帰って来たら、すぐに部屋に来て欲しいとのことです。」
「畏まりました」
あ、ヴェンデル様がローレンツ様に例の件を言ってくれたのかな?
その日、私は心無しかうきうきしながら、侍女の仕事をした。
そして、ローレンツ様が帰宅。
「カミラ、話があるから、部屋へ」
「はい」
ローレンツ様について行き、初めてローレンツ様の寝室に入った。
中には観葉植物と、虫が入っている透明な箱があった。
「あぁ。その虫がカイコといってね。 絹の原料になる糸を吐くんだよ。 この部屋で実験しているんだ。」
「そうなのですね」
私は初めてのローレンツ様の部屋に、新鮮さを感じ、キョロキョロしてしまった。
「カミラ、戦闘訓練をしたいそうだね」
「はい!」
「密偵の技術を学んでいるとか」
「はい! お役に立てることが増えれば良いなと思って」
「じゃぁ……俺と勝負しようか」
「え?」
勝負?
何をするんだろう?
「勝負とは?」
「俺に一度でもカミラの攻撃が当たれば、密偵の訓練をさせてあげよう」
「本当ですか!?」
「でも、俺が勝てば、俺の言うことに従ってもらう」
「……それはなんでしょうか?」
「勝負がついたら教えるよ」
ローレンツ様はいつも「僕」って言っていたのに、今は「俺」って言ってる。
ヴェンデル様は「俺」だったから、本当はそうなのかも。
こういうところは兄弟なんだぁ。
そんなことを思っていると、ローレンツ様は上着を脱いだ。
「じゃぁ……始めようか」
「はい!」
「もうかかって来ていいよ」
カミラはローレンツ様の真正面に向かって走り出した。
そして、股間に向かって蹴り上げた。
これは、父、ベルンフリートに教えてもらった唯一の体術だった。
カミラが蹴り上げた瞬間。
ポスンと音がして、カミラはいつの間にか床に仰向けになって動けなくなっていた。
「勝負あったね」
にっこりと笑うローレンツ様。
カミラにはどうしてそうなったのか、訳が分からなかった。
「カミラ?」
「あ……」
「俺の勝ちで……いいね?」
「は……はい……」
私は、少しローレンツ様のことを恐くなってしまった。
「これくらい避けられなければ、密偵は無理だよ。
他に訓練は、今後役立つこともあるから、継続すると良い。」
「あの……」
「ん?」
「……私は、役立たずですか?」
「え……」
私の目は、いつの間にか、涙でいっぱいになっていた。
頭の中で、男の声が響く。
『お前の婿になりたがるやつなんていないだろう?
居たとしても爵位目当てだ。
お前なんか捨てられるに決まってる』
男がさらに追い討ちをかける言葉を吐いた。
『学園にも通ってないお前の、一体どこに価値があるんだ!?
その鉄仮面で男が近寄ると思っているのか?
こんなに身長があると、避ける奴も居るのをお前は知らないんだな!
胸なんて無いに等しいじゃないか!
お前に女の魅力なんて、どこにもない。
何も持っていないんだな? お前……なんでここに居れるんだ?』
「カミラ!? ごめん! やり過ぎた!!」
ドン
私は思わず、ローレンツ様を突き放してしまった。
「あ……ごめんなさい」
居ても居られなくなって、私はローレンツ様の部屋を出て、侍女棟にある寝室に走った。
残されたローレンツはというと、
「最低だ……俺は」
そうつぶやき、青い顔のまま、しばらく動けなくなっていた。




