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23 優男な成金子息、続家族会議を開きました


「ローレンツ様!」

「何だ? ユリウス」


今日も、カミラに会う前に、家を出る予定だ。

最近カミラに会えていないのと、アンネリーゼとヴェンデルへの怒りと、仕事の忙しさで、かなりストレスが溜まっていた。


「こちらをご覧ください! ヴェンデル様からお預かりしました。」

「ヴェンデルから?」

「至急の用件です。 僭越ながら、私も目を通しました。」


すぐに手紙を読むと、俺の眉が寄るのが分かった。


「なんだこれ……」


要約すれば、こうだ。


・先日、カミラと会った時に、侍女の間で、うちの男爵家に密偵がおり、

 誰が密偵なのか予想することが流行っているという話を聞いたこと。


・カミラはそれを聞き、密偵に興味を抱き、ぜひ、密偵の技術を取り入れたいと思っていること。


・カミラはすでに、密偵の技術を学ぼうと、自分なりに実践しているということ。

 ただ、戦闘訓練だけは、教えてくれる人が見つからず困っているので、

 ヴェンデルが俺に伝えると言ったことで、戦闘訓練は今のところやらずに済んでいるとのことだった。


カミラは常に俺の予想の上を行く。

俺は思わず、天を仰いだ。


「まず、また家族会議だな」

「さようでございますね。 侍女長からも話を聞きましょう。」

「そうだな。 ……で、問題は……カミラか。」

「そういえば、ローレンツ様。 カミラ様にちゃんと思いを伝えたのですか?」

「……いや……その……」

「……料理長が言っていた通り、ポンコツでございますなぁ」

「言おうとは思ってるんだよ!」

「口に出さなければ、伝わるものも伝わりませんよ。 ……早くカミラ様を安心させてあげてください」


俺はこれ以上、二の句を継ぐことができなかった。



その日の夕食、カミラが来てから二度目の家族会議を開くことになった。


「また何かあったの?」


ハンナが困ったような顔で、ローレンツに訪ねる。


「ヴェンデルからある報告がありました。 ヴェンデル、説明を」

「はい。 先日、たまたまカミラ様に会い、話す機会がありました。

 そのとき、カミラ嬢から、侍女の間でうちの男爵家に密偵がおり、

 誰が密偵かを予想することが流行っていると聞いたのです」


これに、皆の目が変わった。


確かに、ベック男爵家には密偵が存在する。


当主のみ、これを動かすことが出来、男爵家の人間は、成人の際、誰が密偵かを教わる。

もちろん跡継ぎであろうと、当主でなければ、密偵は動かすことが出来ないが、有事の際、当主不在で密偵側が了承した時のみ、当主以外の男爵家の人間も動かすことが可能だ。


密偵は、ベック男爵家に忠誠を誓っている者でないと、なることも出来ない。


その密偵からも、今回の話は当主に上がってこなかった。

これは裏切り者がいるのか、もしくは狭い範囲のみで流行っているのか、真相を知る必要がある。


「まず、侍女長に聞いたところ、侍女長の耳にも入っていなかった。

 そこで、カミラが聞いたと言う、ビアンカに聞いてみたところ、侍女見習いの間で流行っているらしい。 そこで、ある侍女が浮上した。」


その侍女は、エルゼという、この国では珍しい、濃紺色の髪を持つ少女だ。

専属つきでない、カミラ達と同じ侍女見習いだった。


彼女は事前調査の段階で、親が、ミーシェと我が国ロザリファのハーフだということが分かっている。

それ以外、特に問題は無かったので、採用したのだが……


「彼女は恐らく、ミーシェからのスパイの線が高いです。

 恐らく、密偵がいることを侍女見習いに聞かせることで、互いに疑心暗鬼にさせ、カミラも子爵家の密偵だと思わせ、孤立させようとしたか。 あるいは他の使用人の情報を引き出しやすくしたか……」


例えば、エルゼが話を聞いた見習い侍女から、「不自然な場所に庭師が居たから、彼が密偵じゃないか?」と聞けば、その庭師に注意して動くことができる。


おそらくエルゼはローレンツの弱点である、カミラを狙っている。

カミラを連れ出すときに誰に注意したら良いか、侍女見習いを使って聞いていたとしたら、もうそろそろ実行する可能性が高い。


見習いの中だけで密偵の噂が流行っているのは、正規の侍女だと、侍女長に伝わって上に報告が行ってしまうことを恐れてか。

あるいは本当の密偵に当たる可能性を考えてのことなのだろう。


「そんなに絹が欲しいのかね?」

「我が国に来る王族は……たしか王女だっけ?」

「まだ、14才だったはず。 それにしても……我がままな姫ですね」


「全くだ」と皆が頷いた。


「これで、ターゲットがローレンツの弱点である、カミラ嬢ってことがはっきりしたな。」

「……とすると、カミラ嬢が危なくないか!?」

「ですが父上、今、子爵家に帰ってしまうと、子爵家は使用人が全くいないのですよ。 警備に当たる騎士もいません。 安全とは言いがたいですが、ここにいる方が、まだマシです。」

「それもそうだ。 ……ベルンフリート卿がいるので、頭が回らなかったよ。」


うん、と頷いたあと、ティルが、口を開いた。


それにみな、同意した。



これで一つ片付いた。


さて、あっちはどうしようかな。


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