22 強面貧乏お嬢様、密偵を目指します(後)
「ヴェンデル様。 どうしたのですか? ここは侍女棟ですよ?」
すると、気付いていなかったのか、「え!?」と動揺した。
「ついて来てください」
私はそういってヴェンデル様と人目につかないベンチへ移動した。
「申し訳ない! 人気が無いところへと思っていたら、ここに来ていた。」
「悪気が無いのは分かっております。 1人になりたかったのでしょう?」
こくんと頷く。
「カミラ嬢。 申し訳ありませんでした!」
「何のことでしょう?」
「先日、ご令嬢が男爵邸に訪ねて来たでしょう?」
「あぁ……ローレンツ様の思い人ですね!」
サーっとヴェンデル様の顔が青くなった。
「……違います!! あの人はフレディ兄上の婚約者です」
「え!? そうだったのですか!?」
なぜか私はほっとした。
……なんでかは分からなかった。
「でも……俺が仕向けたようなものです。 俺はカミラ嬢のことを知りませんでしたから。 てっきりあなたが、男爵家を探るつもりで使用人をやりたいと思ったのです」
「あ……勘違いさせてしまったのですね。 それは私も悪かったと思います。 ごめんなさい」
「謝らないでください。 悪いのは俺ですから。」
ヴェンデル様から後悔の色が取れなかった。
「もしかして……何かローレンツ様から言われたのですか?」
「まぁ……いろいろ」
何を言われたのだろう……?
まだ、ローレンツ様と会ってから日が経つが、あまり会っていないせいか、まだ、どんな人なのかが分からないことが多い。
話さなければ、わからない……か。
「ヴェンデル様は、私が使用人をやりたい理由はご存知でしょうか?」
「あぁ……確か、どこへ行っても働けるようにしたい……と」
「その通りです。 本当は社交界デビューをしたら、王城に働きに出るつもりでした。ですが、子爵家の為に婿を捜す方が優先と両親に言われてしまい、諦めたのです。 それに、使用人を目指したのは他にも理由があります。」
「…それは?」
「私は社交デビューをして、自分が社交が苦手だとはっきりわかったのです。
それに、社交界の時は必ず緊張で顔が強ばって、真顔以外作れないのです。
結果『魔女』と呼ばれるようになってしまいました。」
「じゃぁ……あなたは人を誘惑したり、叱咤したりとかは……?」
「したことがありません」
ヴェンデル様はこちらを見ながら、口を開け、固まっていた。
「話さないと、分からないものですね」
「そうですね。 あ、使用人になりたい理由はまだありますよ!
ただ単純に、それをすることが性に合っているのです。
うちは使用人は1人もいませんでしたから、ここに来て、使用人の方々のすごさを日々、
目の当たりにしています」
「……確かにそうだな。 実は今、俺には使用人を使うなという命令が出ていて、何でも1人でこなさなければならない。 そんなこと今まで無かったから、ここ最近はかなり戸惑っていて、今頃になって、使用人のありがたさを感じたよ。俺は、貴族になったのが4才だったから、他の兄弟と違って、ありがたみが分からなかったみたいだ」
「使用人の方々ってすごいでしょう?
そういえば、この男爵家には密偵というのが存在するようで、誰がそうなのか、
予想することが流行っているのです!
私、それを聞いて、密偵の技術をぜひ取り入れたいと思います!」
「え……そんなことが噂に……って、は!? 密偵の技術?」
「はい! 私の目標は何でも出来る、敏腕使用人ですから!」
ヴェンデル様が少し呆れたような顔をしてこちらを見ていた。
私何かまずいことを言ったかな?
「待った! 密偵の技術を取り入れて、一体あなたは何をしたいの?」
「はい。 主人が言ったことを何でも出来る人になりたいのです!
そうすれば、どこに行ってもすぐ採用してくれると思いまして!」
お金を稼ぐには、まず、採用されてから!!
その為に技術をじゃんじゃん磨かないと!!
「あなたは、密偵の技術と言いましたが、今その訓練などをされているので?」
「はい! 侍女の仕事も誰も見ていないのを狙ってやっていますし、
人から情報を聞き出す方法を侍女長から学びまして、少しずつですが、
侍女達の素顔が見えてくるようになりました。
あとは、戦闘訓練をしたいのですが、教えてくださる方がいなくて……。
侍女で剣をたしなんでいる方にお願いしたのですが、断られてしまいました。」
やっぱりお父様に頼むしかないか。
「……分かりました。 ローレンツ兄上にそのことを伝えておきます」
ヴェンデル様はこちらを見て微笑んだ。




