02 強面貧乏お嬢様、結婚を申し込みました
初回は2話投稿します。
今日は王家主催のパーティー。
当然のごとく、私はいつもの様に壁を背に立っていた。
私の肩書きはカミラ・アルベルツ子爵令嬢、アルベルツ子爵の三姉妹の長女だ。
アルベルツ子爵家といえば、王家の血も入るくらいの名門貴族だった。
しかし、祖父が行った事業の失敗で、生活はかなり困窮している。
使用人も雇えないので、普段は家族で家事を行っているほどだ。
父は騎士団に所属している為、お金は入るのだが、そのお金は家族全員を養えるかといえば、ギリギリ生きれるレベルのものだった。
唯一の救いは、母方の祖父のおかげで、飢えを感じずに済んだことだろう。
食料を分けてもらっていたので、私もすくすくと成長する事が出来た。
元々私は成人したら、王城に侍女として入るつもりだった。
しかし、私は長女。
侍女として、王城に上がるよりも、婿を取るため結婚相手をさがしてほしい。
そう両親に言われて、渋々納得した。
だが、それは間違いだったと思う。
なぜなら私は、未だに男性はおろか、女性とすら話が出来ない、社交下手であったのだ。
外では常に、緊張から来る強ばった顔の私は、周りの目からはどうも恐く映る様だ。
誰かが「魔女」と言ったせいで、余計私には近寄ってこなくなった。
社交界デビューの時だって、親戚筋の男性にお願いして、エスコートをしてもらったが、一緒にいたのは、行きと帰り。
それと一曲ダンスを踊っただけで、男性はどこかへ行ってしまった。
ダンス中も黙って、ただ、目的をこなすような、事務的なものだった。
私は期待を裏切られるような、そんな気持ちで、男性がいない間は壁を背に突っ立っていることしかできなかった。
もう!
こんなことなら、王城に上がって侍女になる方がお金も手に入るし、使用人スキルもアップ出来るじゃない!!
あぁ!!使用人として、仕事をしていたい。
スキルを上げたい!!
もう、ここから逃げ出したい!!
そう思ったとき、1人の男性が近づいて来る。
私より家格が上なら、近づく時に話しかけてくるはずだが、彼はそうはしなかった。
もしかしたら、私より家格が下の男爵位かもしれない。
このロザリファ王国では、貴族の爵位が5つある。
上から順に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。
上位貴族は、公爵、侯爵、伯爵。
下位貴族は、子爵、男爵となる。
下位の貴族から上位の貴族に話しかけるのは、マナー違反。
なので私から、話しかけてみた。
「なんでしょう?」
「君、アルベルツ子爵令嬢だよね?」
背が高く、茶の瞳に茶のゆるいウェーブの髪の、優しげな顔をした男性が口を開いた。
「はい」
「僕はローレンツ。 ベック男爵の次男だ。
良かったら、僕と踊ってくれますか?」
「……私でよければ」
あぁ…またか。
たまに、友人にせっつかれて、渋々私とダンスをする殿方がいる。
大体ダンス中も黙って終わり。
いわゆる罰ゲームだ。
差し出された手を取り、ダンスホールへ向かう。
ダンスが始まると、珍しく男性が私に話しかけて来た。
「君にちょっと興味があって誘ったんだ」
「興味?」
「なぜ君は、そんな無表情なのかな?」
「……これは、緊張から来る顔の強ばりです。 外に出ると、どうしてもこうなってしまって……」
「なんだ、つまらないからじゃないのか」
「つまらないと言えばつまらないです。 ……1人でいることが多いので」
「つまり君は、単なる社交下手なのかな?」
「よくわかりましたね。 その通りです」
「それなら、もっと早く話しかければよかったな」
「え?」
「僕は次男だからね。 婿に取ってくれる令嬢を捜しているんだ」
え!? なんていう好条件な男性!!
ただ、お金がなければ意味が無い。
私が婿を取る条件は、当然支度金狙いだから!!
「今、お仕事は何をされているのですか?」
「自分の事業を興してね、今、紡績や織物の商会を経営しているんだ。
それにうちは元々成金の男爵家だからね。
次期当主の兄も経営者だし、弟も先日事業を興したよ」
女神様~~!!
ありがとう!! 私を見捨てないでくださったのですね!!
「すごいですね!」
私は思わず、いつもより声を上げてしまった。
すると、ローレンツ様は、きょとんとした顔になってから、なんだか色っぽい笑顔になった。
「そんな顔もできるんだね」
「ん?」
「あぁ……いや、とっても魅力的な顔だったから」
「? そうですか」
どんな顔だったんだろうと思案すると、ローレンツ様ふっと笑った。
「とってもすてきな笑顔だったよ」
「あ! そうでしたか……よく分かりましたね。 私が考えてること」
「君は案外素直だよね?」
「家族からはよく言われます。 だから、笑顔ではなく表情を出さない練習をしていたら……」
「こうなったと。 面白いなぁ。 そういえば、家名だけで、名前を聞くのを失念していた」
「カミラと申します。 こちらこそ、言うのが遅くなってごめんなさい」
「いや、こちらから早く聞くべきだった。 お互い様だね」
ふふっと笑い合っていると、もうそろそろ、ダンスが終わる時間が迫っていることに気付いた。
「ローレンツ様。 この後お時間頂いてもよろしいでしょうか?」
「ダンスの申し込みはしていないから、構わないよ」
そう聞いたところで、ダンスの曲が終わった。
「では、こちらに」
私は人気のないところへ誘導する。
そして、ローレンツ様に見つめ合うように立って、思い切って言ってみた。
「ローレンツ様」
「なんだい?」
「私と契約結婚してくださいませんか?」
「はっ?」