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17 強面貧乏お嬢様、さらにスキルアップに勤めました(後)


「カミラ、次はここへ行ってください」


ユリウスさんの指示で次の指定場所に行くと、そこは、侍女長が仕事中にいる侍女長室だった。


長とつく使用人には、寝室とは別に部屋が与えられる。

そこで、部下の相談を受けたり、叱責したりするのだ。


コンコン

ノックすると、「はい」と声が聞こえて来た。


「失礼します」


入ると、侍女長が立ち上がった。


「ようこそ、侍女長室へ。」

「本日はよろしくお願いします」

「はい。 繕い物でしたね。 それは私の得意分野なのです。

 ただ、時間が空いた時にしか教えることができませんので、ご了承ください」

「こちらこそ、我が(まま)を聞いて頂きありがとうございます」

「さぁ!早速やりますよ。

 まずは、ここ。 つながっている糸が途中で切れていますね。

 この場合、待ち針を刺してから、元の糸を抜いて……」


コンコン


「はい」

「失礼致します。 奥様のお茶会に出す、紅茶についてご相談が……」


コンコン


「はい」

「失礼致します。 もうそろそろ、食器を新しくしようと思うのですが……」


ドンドン


「はい!」

「失礼致します。 侵入者です! 今、中庭を逃走中!」


すると、侍女長は配管が集まっているところへダッシュし、そのうちの一つの丸い蓋を開け、叫んだ。


「緊急事態! 侵入者です。 先ほど中庭を逃走中!! 繰り返します……」


侍女長の叫んだ声が、配管を通じ、邸全体に響いた。


「カミラはここで待機。 あなたはそこの窓が閉まっているか確認!」

「「はい」」


私は動きたかったが、その場に居ることしかできなかった。


侵入者は無事、警備兵の男性が捕まえたそうだ。


その人はゴシップ紙の記者だという。


避難していた侍女が出て行くと、侍女長は私を(さと)した。


「カミラ。 

 この男爵家は、貴族より商人としての色が濃いため、こうして大衆的なゴシップ記者に常に狙われます。

 平民からの成り上がりと揶揄するのは、高位貴族だけではないのです。

 もし、記事が出たとしても、動揺せず、まずはローレンツ様に尋ねなさい。」

「あの……」

「なんでしょう。」

「ゴシップとか、記事って……何のことでしょう」


アルベルツ子爵家は貧乏貴族なため、子爵であるベルンフリートは、いつも新聞を王城の図書館で見るか、同僚に聞いて情報を得ていた。


お金に余裕が無いのに、新聞はおろか、ゴシップ紙など、買う余裕が無かったので、見る事もなかったのだ。


ちなみに私はこのとき、その事実を知らなかった。


「あらまあ……それでは後で、お見せするわね。」


苦笑しながら、侍女長はカミラに繕い物を教えることを再開した。



わずか数日後。


「もうこれで、教えることはありません」


そういわれて、繕い物もマスターした。


「そうそう! 先日言っていた新聞とゴシップ紙をお見せするわね」


そう言って、セピア色の紙に文字が並んでいるものと、本の様な形になっているものをカミラの目の前に置いた。


私が読んでみると、セピア色の方は新聞で、政治や経済の動きが主に載っていることがわかった。


問題はゴシップ紙。


なんとか伯爵となんとか男爵夫人の逢い引きの記事や、かんとか子爵の不正疑惑など、噂やスキャンダルが載っていた。


私は思わず「うわっ」と言って、顔をしかめてしまった。


「こういう噂も社交界ではよく聞きます。

 そんな顔をせず、受け流せるようになりましょうね」


私はこの後、使用人教育ではなく、なぜか、貴族夫人教育を受けることになった。


何でこんなことに……


貴族夫人教育自体、苦手意識を感じていた私には、気が重かった。


「はぁ……」と息をつきながら、自分の寝室に着くと、ドアノブに紙袋がぶら下がっていた。


なんだろう?


袋の中には、ハンドクリームと手紙が入っていた。

手紙の封を切ると、それはローレンツ様からの手紙だった。


「カミラへ

 お仕事お疲れ様。

 僕は今、仕事が立て込んでいて、なかなか会うことが出来ない。

 その代わり、これを手に塗って、仕事に励んで欲しい。

                              ローレンツ」


私は手紙を読み終わると、なんだが心が暖かくなり、早速ハンドクリームを手に取った。



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