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16 強面貧乏お嬢様、さらにスキルアップに勤めました(前)


「カミラ」

「なんでしょう?」

「先日、ローレンツ様に申し上げた件、整いましたので、今日は食堂に移動してください」

「分かりました!」


ユリウスさんに言われて、食堂にやって来た私は、料理長に挨拶しました。


「カミラ・アルベルツです。 本日からよろしくお願い致します」

「セリムだ。今日からよろしく」


私は昼食のみ、手伝うことになった。

さすがに、主に男爵一家にお出しする朝と夕の食事は手伝うことが出来ないらしい。

食堂での仕事が終わったら、侍女の仕事に回る。


今日の私の仕事は、野菜を切ることらしい。

ボウルには、恐ろしいくらい大量の野菜が積み上がる。

それでも一生懸命頑張った。

あと、こっそり、味付けの仕方も見ていた。

家で作る時の参考にしよう!


お昼が終わり、食器を洗おうとすると、料理長からお声がかかった。


「本当は皿洗いもして欲しいが、ローレンツ様から、止められていてな。

 ほら……掃除する時よりも、大量の水と洗剤を使うから……」


なんでも、手が荒れるのは貴族としても良くないとのことで、極力水仕事はして欲しくないのだそうだ。

食器で怪我をするのも込みで。

もちろん私は心の中で、口を膨らませた。

そんなの今更。

私の手は、もう既に遅い。

そんなこと、ダンスを踊った時に気付いているかと思ってた。


すると料理長から、一週間後にテストすることを申し渡された。


(まかな)いですか?」

「そうだ。 二食分だけだけどな。」


一週間後、私なりの賄いを作って、それで合否を判断するらしい。


一食はもちろん料理長だが、もう一食は舌の超えた使用人に食べてもらうそうだ。

ちなみに、料理長がダメと判断したら、私が食べるらしい。


「材料は用意しても良いが、出来るだけ、その場にあるものでなんとかして欲しい。

 例えば、これだけしか材料が無いという場合、その材料のみで作らなければならない。

 そんな状況は料理人としてはしょっちゅうだ。」


なるほど、と私は(うなず)きはしたが……


「私がここに入ったのは今日が初めてなのですが……」

「カミラの仕事ぶりを見ていたけど、実は今いる見習いより素晴らしかったんだ。

 野菜の切り方も大きさも揃っていて綺麗だ。

 しかも、早い。

 スピード勝負の食堂には必須な能力でもある。

 それに、味付けをしていた時に観察していたろ?

 それは、技を盗むって能力だ。

 見習いではなく、もう、一人前に限りなく近い。」


ここまで褒められて、カミラは嬉しかった。

だが、それとこれとは話が別だ。


私は不安に思いながら、ありとあらゆる想定をするしか無かった。

食材は自分では用意せず、余り物を譲ってもらい、料理をすることにしたからだ。


一週間後。


カミラは見事、料理長の合格をもらった。


その日のメニューは、ポトフにポテトサラダ、人参のグラッセにバターライス。


ありきたりな家庭料理だったが、料理長から美味しいと言ってもらえた。


「これで、コックの技術は一通りマスターだ。

 よくやったな!」

「セリムさん! ありがとうございます!!」

「すぐ音を上げると思ったぞ。 次のところでもしっかりな!

 さぁ!昼、食べてこい!!」


カミラは「はい」と満面の笑みを浮かべて、料理長室のドアを開けて出て行った。


「さて……」


部屋の中に配管が集まっているところがあった。

その配管の一つひとつに、丸い蓋がくっついている。

セリムはそのうちの一つを開け、ある人物を呼び出した。


数分後、料理長室のドアにノック音が聞こえた。


トントン


「はい、どうぞ」


ドアが開くと、そこには仕事に行っていたはずのローレンツが立っていた。


「お招き感謝する」

「お待ちしておりました。

 さぁ!カミラ様が作った『賄い』ですよ」


ローレンツは嬉しそうに頷くと、席について、カミラが作った賄いを口に運んだ。


「美味しい。 家庭の味だな。

 母上が昔作った料理に近い」


その昔、貴族ではなく、平民だった時代、よく母がキッチンに立って料理をしていた姿を思い出した。


「それは良かった。 プロになるにはまだまだですが、侍女でこれだけ作れれば、問題ないかと」

「あぁ、充分だな。 これは余り物で作ったのか?」

「はい。 今日はクルツ芋が大量に買えまして、芋が多くなっております。

 ポトフに入っている肉は、朝に出したハムの切れ端です。

 後は残っていた野菜をうまく料理したと思いますよ。」

「そうか。 こちらの我がままを聞いてくれてありがとう、セリム」

「ありがたきお言葉……と言いたいところですが、正直、本当にうちの見習いより出来るんですよ。

 お貴族様でなければ、欲しいくらいです。」

「それはまた……他の見習いの手本になってくれたかな」

「充分刺激を受けていましたよ。 それはそうと、ローレンツ様」

「なんだ?」

「カミラ様の手荒れにはお気づきで?」

「あぁ……そういえば。」


……ダンスを踊った時に。


ローレンツが頭の中でその映像を思い出していると、セリムは渋い顔をする。


「だったら……ハンドクリームくらい、プレゼントして差し上げたらいかがですか?

 カミラ様のお給金の使い道を知っています?

 休みの時に、家に帰って、使わずに置いて来るそうです。

 ビアンカから聞きましたよ。」


それを聞いて、ローレンツの顔が青くなった。


「……ローレンツ様は、恋するとポンコツになられるのですねぇ」


セリムはその顔に苦笑した。


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