15 強面貧乏お嬢様、使用人をはじめました (後)
夕刻。
男爵家の方々が次々とお戻りになられた。
「君が、ローレンツの婚約者?」
そう訪ねて来たのは、茶のストレートヘアに緑の瞳の綺麗な顔立ちをした男性だった。
「はい、カミラ・アルベルツと申します」
「フレディ・ベックだ。
身分のことは聞いてはいるけれど、今はここの使用人だから、敬語は使わないよ?」
「それで結構です。 しばらくの間、よろしくお願い致します。」
「……よろしく」
すると、ローレンツ様が帰って来たのが見えた。
「カミラ」
「ローレンツ様。 お帰りなさいませ!」
少し興奮しているのか、いつもより大きな声が出てしまった。
「ふっ!」
「……兄上」
声をこらえるように、口元に手を当て、肩を震わせるフレディ様の姿があった。
「いや……すまん。
俺の顔見て、興味なさそうにしているのが珍しくて……そしたら、ローレンツをみ見たとたんに、笑顔になったから……落差が……」
笑うフレディ様に、ローレンツ様は呆れたような顔で見ている。
「そこで、何をしているのですか? 兄上」
やって来たのは、ローレンツをやや小さくした感じの男性だった。
瞳だけはフレディ様と同じ緑だった。
「ヴェンデル、ちょうど良かった。 紹介するよ。
こちらが、僕の婚約者だ」
「あぁ……ヴェンデル・ベックです。 よろしく」
「カミラ・アルベルツです。 よろしくお願い致します」
「で。 何を笑っていたのです?」
「あぁ。 このカミラ嬢の鉄仮面を脱いだ瞬間を目撃してしまってな」
「鉄仮面って言わないでください。」
「あらぁ……大渋滞ね」
そこに、奥様のハンナ様が帰宅した。
「カミラ、もう慣れたかしら?」
「はい。 すごく勉強になっております。」
「よかったわ。 けれど、無理しないでね。」
「お気遣いありがとうございます」
「さぁ!あなた達!! 邪魔だから、散りなさい!
図体大きいのが固まっていたら、通行の邪魔よ!」
ローレンツ様以外はそれぞれの部屋に帰って行った。
「カミラ、ちょっと話したい。
部屋の前まで歩きながら、話そう。」
「はい」
ゆっくり歩き出すと、ローレンツ様から、驚くような言葉が飛び出した。
「ユリウスから聞いたよ。 もう、侍女の仕事をマスターしたそうじゃないか。
これでうちの使用人は終わりで良いね?」
「え?」
私は悲しげな声を出し、眉をハの字にした。
「だって、契約通りだろう?」
「まだです! まだまだ知りたいことがてんこ盛りです!!
侍女の仕事だけじゃなく、他の仕事も体験したいんです。
コックさんとか、服の繕いをする技術とか、庭師とか……」
「は!? 王城でもそこまでやる侍女はいないよ?」
「王城は広いでしょう? 人数もいっぱいいると思います。
私がなりたいのは、1人で何でもできる使用人なんです!」
一生懸命訴える私に、ローレンツは一瞬固まる。
「うー……庭師はやめてくれ。
あれは大型の刃物を持つ仕事だ。
慣れていなければ危ない。
その他は……なんとかしよう」
「本当ですか!」
あ……また、大きな声が出てしまった。
「ユリウスに頼んでおくから、ちゃんと言うことを聞いて動いて。」
「畏まりました!」
私はその後、嬉しい気分で仕事することが出来た。




