12 優男な成金子息、婚約者の親族に試されました(中)
「婚約の件なんだけど、うちとしては、ぜひ、ローレンツ卿に来てもらいたい」
俺はこんなにあっさり言われるとは思わなかった。
「だが……まず、剣で俺に認めさせろ」
アルベルツ子爵は低い声を出して、剣を俺に差し出した。
そういえば、この人騎士団の人だったっけ?
俺は素直に剣を受け取り、アルベルツ子爵の後をついて行く。
手合わせは庭でやるらしい。
その場に居た皆もぞろぞろとついて行く。
庭に出ると、いくつか席も用意されており、見物人はここで見守るらしい。
「本気で来ていいよ。 君、剣をたしなむみたいだし」
「では、遠慮なく」
アドルフが審判をし、「始め」の声で、互いに近づき、剣を合わせる。
「おお!良い太刀筋だね。 机仕事が多いはずなのに、なぜだい?」
「仕事上、絡まれることもありますからね。 鍛練はしていますよ」
「こうして打ち合っているのに、余裕そうだ。 さては、かなりの手練れだね?」
「元は平民ですよ? 荒くれ者との付き合いもあります。」
「君の持ち札かな?」
「その通りです。」
「出来れば、カミラを巻き込んでほしくないな」
「彼女には知られたくないですね」
「それは無理かもな。 あの子は好奇心も強いから」
「では、あえて紹介して、あまり近づかないように言うしかありませんね」
「そうしてやってくれ。 人は秘密にしていると、それを暴きたくなるものだからね」
「……肝に銘じます。」
こんな会話が交わされている間、周りの目には凄まじい剣の応酬が映っていた。
「すごいなぁ……べルンフリートはかなりの手練れだと思っていたが……まさか対等にやり合えるレベルとは……」
「下町はごろつきも多いですからね。 あと、学園に通っている間、みっちり稽古をしていたそうです」
「はぁー……文武両道とは。 ……へたに高位貴族と結婚させるより……良いな。」
アドルフとティルは、観戦しながら、のんびりとそんな会話をしていた。
一方女性陣はというと。
「……」
目にも留まらぬ早さの2人の剣技に、しばらく言葉が出なかった。
「はぁー……これが剣技なのかしら?」
「すごいわ……ベルンフリートと対等だなんて……」
「兄弟の中でも、ローレンツは特に、全体の能力が飛び抜けておりますから」
「まぁ……もしかして、跡継ぎの候補だったのではなくて?」
「そんな話もありましたが……本人がまず、自分の商会をやりたいからと、兄に譲っておりました。」
「あらぁ…こう言っては失礼かもしれないけれど……優良物件ではありません?」
「そうおっしゃって頂けて光栄です」
「自慢の息子さんで……羨ましいわ」
そんな会話が繰り広げられる中、俺たちの戦いに幕が閉じた。
俺は一瞬の隙を突かれ、キィンと音を上げ、手から剣を弾かれてしまった。
そして、ベルンフリートが俺の喉に剣を突きつけた。
「勝負有り! 勝者、ベルンフリート」
勝負が終わり、部屋に戻ると、出て来たドリンクを飲みながら、ベルンフリートは満面な笑みを浮かべていた。
「いや~!良い勝負だった。 良い汗かいたよ。」
「こちらこそ、勉強になりました。」
剣を交えて分かり合った2人に、これ以上の言葉は必要なかった。




