11 優男な成金子息、婚約者の親族に試されました(前)
アルベルツ家で身内の婚約おめでとうパーティーが開催される数日前。
俺は、ベック男爵夫妻である両親と一緒に、ある邸に呼ばれた。
「ここでいいんだよな?」
「ここって聞いていますよ?」
「本当に……ここ?」
三人が立っていたのは、ブレンターノ伯爵邸。
アルベルツ子爵から話し合いに指定された場所であった。
呆然としていると、中から執事が現れた。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「ローレンツ・ベックと申します。
べルンフリート・アルベルツ子爵との約束で、この場所に参りました。」
「ベック男爵家様ですね。 お待ちしておりました。 どうぞ、こちらへ」
邸の中に案内されると、そこには、4人が待っていた。
席に着くと、早速自己紹介された。
「ようこそ、そして初めまして。
私が、カミラの父、べルンフリート・アルベルツ子爵です。」
「妻のアマーリアと申します。」
べルンフリート・アルベルツ子爵は、カミラにそっくりだった。
つり上がった目に、目と髪の色も同じだ。
ただ、カミラと違うのは、人当たりがよさそうな笑顔だけだった。
アマーリア子爵夫人は、カミラには似ておらず、どちらかと言えば、デリアとドリスにそっくりな、可愛い系美女だった。
金髪と瞳が緑なところは、デリアと瓜二つだ。
そして、アルベルト子爵が一緒に座っていた夫婦を紹介してくれた。
「こちらが、この邸の主のアドルフ・ブレンターノ伯爵だ。
そして、奥方のベッティ・ブレンターノ伯爵夫人。
2人は我妻、アマーリアの両親でもある。」
なるほどと、納得した。
まさか、財務大臣の親戚筋だったとは思いもしなかった。
アドルフ・ブレンターノ伯爵は、年こそいっているが、柔和な顔つきの美形である。
緑の瞳に金髪のゆるいウェーブに白髪が混じった、往年の男性であった。
その妻、ベッティ・ブレンターノ伯爵夫人は、柔和な顔つきの美女で、グレーの目に白髪混じりの金髪のストレートを後ろでまとめている。
「初めまして、アドレフ・ブレンターノだ」
「妻のベッティよ」
2人は微笑みながら、ベック男爵家の三人に自己紹介をした。
「初めまして、ローレンツ・ベックと申します。
まずは、両親を紹介させてください。
父のティル・ベック男爵に、母のハンナです。」
父のティルは、俺と瓜二つの顔をしている。
身長が若干低いことを除けば、俺と双子のように見える。
母のハンナは、茶のストレートにたれ目がちな緑の瞳に可愛らしい容姿の美女だ。
「本日はお招き頂き光栄です。」
父が改まって言うと、べルンフリートが「こちらこそ、会えて嬉しく思います」と返した。
「実は、ベック家を調べてみたのだが、なかなか誠実な人柄のようだ。
ぜひ、縁を持ちたいと思い、我がまま言って、混ぜてもらったんだよ。」
これは、俺にも分かる建前だった。
「こちらこそ、なかなかご縁がない地位の方とお近づきになる機会を与えてくれて、身に余るようでございます」
父のティルも建前で通した。
「さっ!自己紹介も済んだことだし、本題へ行こうか。」
やっと、婚約についての話し合いが始まった。




