ふたりきり
父母とカチュアが私に施した教育の結果だけど、ある意味大きく分かれることになった。
言葉遣い、身のこなしや礼儀作法。ここらへんは多分上手くできるようになったと思う。
カチュアも一生懸命教えてくれたし、私も必死で覚えようとしたから、少なくともそこらへんの貴族にひけを取るようなことはないはずだ。だって、私次第でギュスターブ家が滅ぶか、断絶するか、乗っ取られるんだよ?そんなこと言われれば真剣にもなる。
自分を隠すのもそれなりに上手くできるようになった。ただ、不意を突かれたり、予期しない出来事が起こった時にちょっとばかりぼろが出る。やっぱり私、豆腐メンタルなのかなあと思って父に聞いてみた所、
「お前の精神面が弱い?そんな娘が3歳で家出を計画したりはせんよ」
お父様、家出、結構根に持ってますね。
「お前のそれはただの『不器用』だ。まあリリアンヌは元々おっとりしていて優しい子だからな。『器用』と言った感じではなかった」
えへへ、そうかな。
「そうねえ、お洋服着せてもゆっくりさんだったし、お食事の時もそうだったかしら。あと、よく何もない所で躓くことも多いわね」
あ、あれお母様なんか旗色が。
「そして『ルリ』の方はそうだな、がさつだ。それもかなり。『向こう』のご両親はさぞ苦労してたことだろうな」
「そうねえ。ちょっと『ルリ』ちゃんは落ち着きがないかしらねえ」
「『ルリ』お嬢様は『立ち止まって考えるのが苦手』とお見受けしますね」
あっれえ?私、いつの間にかまた落とされてる?
「だから、それを直すための『教育』だろうに」
と言った感じで、おかげ様で以前ほどやらかしはしなくなったけど、
…今日の拝謁は大失敗だった。
まさか、お父様がバラすなんて思わないじゃない。確かに「行きたくない」ってゴネたけど!それはホントに言ったけど!何もそのまんま王様に言わなくっても良いじゃないの!
…だってさあ、いきなり「明日、殿下のご生誕を祝いに登城するぞ」って言われて「はいそうですか」って言える訳ないじゃない。本物のお嬢様になれるよう、これまでいっぱい練習して頑張ってきたけど、そんな自信なんてないよ。
だから、拝謁の日程ギリギリまで粘ってみたけど、やっぱり「行かない」ってわけにはいかないし、時間が経てば経つほど緊張してくるし、なんかお腹痛くなってきちゃったし。
それでも王様とお妃様と王子様に会って、何とか上手く挨拶して、お祝い言って、それで上手く終わりそうだったんだけどなあ。
アンドルーから呼び止められて、声、掛けられて。上ずっちゃったんだよね。で、つい本音が。
リリアンヌじゃなければ、ものすごく嬉しかったんだけどなあ。
今はそうならないよう頑張ってるけど、やっぱり私の中では「リリアンヌ」はすっごい悪役だし、意地悪いし、周りを一杯傷付けるし、国を滅ぼし掛けて「ハトプリ」ん中でもすっごく嫌われてるし。だから、私押しのアンドルーに会うなら他のキャラがよかったなあ。ヒロインとか贅沢言わないから。
…どこからか、音楽が流れてきた。
あ、ダンスが始まるんだ。
そういえばアンドルーがヒロインと恋に落ちるきっかけって、学院の舞踏会だっけ。で、私が裏から手を回して、ヒロインにダンスのパートナーを作らせないように画策する。
結果、ひとり壁の花になってしまったヒロインの所に、婚約者のアンドルーを連れて現れる私。ヒロインをわざと笑いものにして、それが私のしわざだと気付いたアンドルーが、私を袖にして、ヒロインのパートナーになる。
恥をかかされた私はヒロインをすっごく恨んで、それがきっかけでアンドルーとの関係にもひびが入って、アンドルーは少しずつヒロインに気持ちが移っていく。
そっか、私ひどいことするよね。仲良くすれば良いのに、なんでそんなことするんだろう。アンドルーのこと好きすぎて、嫉妬しちゃったのかな。
音楽は続いている。
今、みんなはあそこで楽しく踊ってるのかな、アンドルーも。
そういえば今回の祝賀会って、「お見合い」だったんだって、父に後から聞いた。
「シナリオ」通りなら、そこで多分私が選ばれてて、今頃は会場の真ん中でアンドルーと踊っていたはずなんだけど、それだと着実にバッドエンドのルートに乗ってしまうから、だから、ハプニングなんだけど、私がここにいて、何も起こらないのは良いことなんだ。うん。私はちゃんとやってる。
うん、…ちゃんと、やってる。
でも、もし、今私がやってることがうまくいかなかったら、将来、あの人からひどいこと言われちゃうのかな。
確か「君には人を愛する気持ちが理解できないのか!」だっけ。「君の愛は歪んでいる」ってのもあったね。「君の心は氷でできているのか」なんてのも。
そんなことないよ。ちゃんと分かってるよ。一生懸命やってるよ。
でも、頑張っても頑張っても、ものすごく頑張っても、それでも上手くいかなかったら、
私、最後はアンドルーに刺されちゃうんだね。
やだなあ。
こうして、一人でいるとそんなことばっか考えてる。この部屋は灯りもなくて真っ暗だから、余計にみんなから取り残されたような気になる。
「教育」でもどうにもならなかったことが、「瑠璃」と「リリアンヌ」の「融合」だった。
私の思考は「瑠璃」が基本で、「リリアンヌ」は言語とか、この世界で生きていくのに必要な知識を持ってるっていうだけ。両方とも私だけど、でも結局「両方」であって「ひとつ」にはならなかった。
水に油を入れて、お箸でぐるぐるーって回しても元に戻っちゃう、あんな感じ。
「気にするな。時がくれば、自然とうまくいく」
「娘がふたりいるみたいで嬉しいわ」
お父様もお母様もそういって私を慰めてくれたが、「時」というのがいつなのか見当もつかない。
そもそも「ひとつ」になんてなるのかなあ?
だから、「瑠璃」である私は、元の世界を思い出してたまに悲しくなってしまうことがある。しばらくすれば落ち着くし、お父様やお母様がいて、屋敷のみんながいればそんなこともすぐに忘れてしまうけど、
でもこんな時はだめだ。
私、この世界でひとりぼっちの「転生者」なのかなあ。
私以外、誰もあっちのこと知らないのかなあ。
「瑠璃」のこと、知ってる人、この世界にはいないのかなあ。
いっしょうけんめいやってるけど、「瑠璃」はたまに、寂しいよ。
私、ひとりの時、ものすごく泣き虫になった。でもここには誰もこないから気付かれないよね。
こっそり、ひとりでべそべそ泣いてたら、
かちゃ
扉が、開いた。
そして、扉の向こうから入ってきたのは、アンドルーだった。
え。ええ?
アンドルーと目が合う。べそべそ泣いてる私の顔を見たアンドルーが、顔色を変えてこっちにくる。
そして、
私をぎゅうううって、抱きしめた。
えええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!




