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リリアンヌの独白①

「まいったなあ…」


 薄暗い部屋の一室で椅子に腰掛けたまま、私は溜息をついた。


 初めて見る王宮で、多少浮ついた気持ちはあったけど、ただ「設定」にはない場所をちょっと見てみたかっただけなのに。

 廊下の奥に鍵の掛かっていない部屋がたまたま一部屋あって、こっそり扉を開けたら窓の向こうに綺麗な中庭が見えて、椅子とテーブルが窓際に置いてあって、ご丁寧にお菓子の入った皿まであって、ちょうど歩き疲れてて、お腹が空いてたら座りたくなるのが人情だよね?

 こっそりお菓子を頂いて、ぽかぽか陽気でのんびりしてたらなんだか眠くなっちゃって、そのままテーブルに突っ伏してしまったのも7歳ならしょうがないよね。7歳だし。中身違うけど。


 だから、居眠りから起きて、慌てて部屋を出ようとしたら鍵が開かない、とか思わないじゃない?


 …ごめんなさい悪気はなかったんですほんの出来心なんです。謝っても応えてくれる人いないけどいたら助けて貰うけど。


 ほんと、私、()()()こんなことばっかりしてるなあ。


 今の私は「公爵令嬢リリアンヌ=ギュスターブ」ということになっている。でも、私にはリリアンヌとしての記憶が7年分()()()()。7歳なんだから当たり前なんだけど。でも、私はちょっと他の人と違ってて、その他に16年分の記憶がある。「喜多村(きたむら) 瑠璃(るり)」という女子高校生の記憶が。

 …ほんとの所、これが「記憶」なのかどうかはよく分からない。私の行き過ぎた妄想なのかもしれないし、もしかしたら変な病気かもしれない。けど、「瑠璃」の方には「リリアンヌ」が知らないいろんな「記憶」があって、そこには「転生」「ゲーム」「ラノベ」っていうのがあって、それでいくと「瑠璃は何かの理由で死んじゃって、ラノベにありがちな感じで転生したら、そこは瑠璃が知ってるゲームの世界だった」らしい。…うっわ、やっぱ私頭おかしいんじゃ?


 でも、「瑠璃」としてはしっくりくるんだよね。


 ていうか、7歳ってこんな頭の回転良くないよね普通。

 なんかさ、「見た目は子供、頭脳は大人」を地で言ってる感じ?最近は言わないらしいけど。

 …「最近」っていつだろう…


 でも、漫画と違って、私に真実を見抜く力はないなあ。結局、自分のことが自分でもよく分からないし。あれこれぼんやり考えてたけど答えは出ない。


 いけない、今はそれどころじゃなかった。


 …お父様とお母様は心配してるだろうなあ。


 私なりに、ここから出るために色々試してはいた。扉や壁を何度も叩いたり、窓から大声を出したり、ベルもあったから鳴らしてみたけど、どれにも全く返事がない。このお城、サービスなってないんじゃないかなあ。

 ドラマとかでありがちな「髪留めで鍵を開ける」は髪留めの銀細工が軟すぎてぐにゅ、とかなりそうだし、実際に鍵開けなんかやったことないので、万一鍵を壊したらもっと怖いことになりそうで諦めた。

「カーテンを伝って窓から降りる」は、そもそも7歳の力じゃカーテンが外せなかった。高さも3m以上あって留め具まで手が届かないし、よじ登ろうとしたけど、リリアンヌ()、もうちょっと筋肉付けなさいよ。ぷよぷよしてまるでお嬢様みたいじゃないの。…いやお嬢様だったね(リリアンヌ)

 紙飛行機を折って飛ばそうと思ったけど紙もない。本はあったけど、…羊皮紙なんだよねえ。なんでこんなとこだけリアルに作るかなあ。紙でいいじゃん紙で。それでも破れなくはないけど、高そうな装丁の本だしなあ。

 と、あれこれ試しては年齢と世界観の壁に阻まれ、今に至っている。


 いろいろ頑張ったけど、さすがにちょっと疲れてしまった。こういう時って、つい余計なこと考えちゃうんだよね。「もしかしたら、このままずっとここに閉じ込められたまま」とか「もしかして幽閉されちゃった」とか。私、日頃の行い、悪かったからなあ。


 やばいやばい。気持ちがネガティブになってる。楽しいこと楽しいこと。


 …そういえば、今日会った王子様はかっこよかったな。「ハトプリ」まんまで。


「ハトプリ」っていうのは私が「瑠璃」の時ハマってた、「ハート・オブ・プリンシズガーデン」っていう乙女ゲーの略称。自分がヒロインになって、迫りくる美形たちをばったばったとなぎ倒し、ってなんか違う。まあでも攻略対象というのはあって、確か、メイン・サブ合わせて総攻略キャラは50人超だっけ。それも私がプレイしてた時はさらにアップデートで増殖中だった。さすがにそれを全員、というほどやりこんでた訳じゃないけど。

 その中で、初期からのメインキャラの一人、っていうか主人公格が今日会ったアンドルー王子だった。私の押しキャラの。

 外見が好み、って訳じゃなくて、単に私が「主人公属性に弱い」ってだけだったんだけど、友達に薦められて始めてすぐは「うわー。こんなの現実世界に実在するわけないじゃん。ありえないわー」とか思ってて、でもプレイしてるうちに、物腰柔らかくて優しいし、そのくせちょっと強引な感じとか、微妙に甘え上手な所とか、気が付いたらすっかりツボってた。まあゲームなんで、越えられない壁はあったんだけどw


 でも、越えちゃったよ。壁。


 アンドルー様見た時「うわー!本物だー!」って言いそうになったもん。

 本物すごい。睫毛長いし、髪サラサラだし、色白くて肌つるっつるだし、目鼻立ち真っ直ぐだし。どこを取っても美形中の美形。

 それもゲームにない7歳設定だよ!ごちそうさま!!


 ここで残念なお知らせがあります。


 私、リリアンヌ=ギュスターブは、ゲーム「ハトプリ」上では、



 ざまあ系悪役令嬢です。


 しょんぼり。

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