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祝賀会という名のお見合い

 ややきつめではあるが、美しい、と言うに何の語弊もない美貌。公爵家息女としての品格と女性特有の柔らかさ、時に子供のような無邪気さもを兼ね備えた、目まぐるしく変わる表情は美貌に一層の華を添え、私や父を含めた多くの貴人たちを虜にしている。

 ただ美しいだけではない。

 幼少の頃から高い教養も持ち合わせており、どこで身に着けたのか、どの分野の話題にも造詣が深く、今私と彼女が通う王立学院の教師、教養の面ではトップクラスの彼らですら知らぬ知識を時に披露し、目を見張るほどだ。たまに耳慣れない異国の言葉が飛び出るのは、知識の(ほとばし)りによるご愛嬌だろう。


 一面、残念なことに彼女は「体を動かす才能」には恵まれていなかった。

 運動どころか、馬車に乗ることや階段を下りること、果ては歩くだけでも(つまづ)く鈍さは、彼女にとって最大級の弱点ではあったが、それもまた普段の姿を知るものにとってはせいぜい”可愛気”で済む程度のもので、彼女の魅力を何ら損なうものではない。


 しかし、私が彼女に魅かれた理由はそのどれでもない。


 私は、彼女のひたむきさに魅かれたのだ。


 …彼女は、最初から彼女(リリアンヌ)だった訳ではない。

 初めて彼女と会った時、外見はともかく、その中身はお世辞にも公爵令嬢とは言い難かった。


 私が7歳の誕生日を迎えた日、王宮は総出を挙げて私の祝賀会を催した。

 この祝賀は所謂「国事と社交の場への御披露目」も兼ねており、

 これまで父や母が代弁していた祝賀の挨拶を、自身の言葉で行う。それがこの国で決められた、王子の最初の責務だった。


「逃げるなよ」


 笑いながら父は私に言った。


「逃げる、ですか?」

「ああ」

「何から、ですか?」

「祝賀会になってみれば分かる」


 何か物騒なことでも計画しているのだろうかこの父は。


「お前の考えているようなことは何もないよ」


 笑みを崩さず父は続ける。


「そうだな。

 アンドルー、お前を祝いにどの位の人が来ると思う?」

「…よく分かりませんが、300、いや、500人位でしょうか」


 父はさらに笑みを深める。


「そうか、もう一度言っておく。逃げるなよ?」


 横で、母が困ったような顔をしていた。


「あなた、そんな意地悪を言わなくても」

「なあに、別に命を取られる訳じゃない。

 予想外の出来事に対応する力を付けるのも王の務めだぞ。なあアンドルー」

「はあ」


「祝賀会」などと言っても所詮はただのパーティ。どんなに多くても500人がせいぜいだろうに。

 それとも、そんなに多くの人が訪れると?1000人とか、2000人!?

 まさか。


 …私は甘かった。




 訪れる祝賀客は国内外含め、万を超えていた。



 もちろんその全てと直接謁見する訳ではないが、それでも大臣や貴族、教会関係者、他国からの賓客、使節団など総勢1000人ほどが、私と父母の謁見に列をなした。

 1日当たりの謁見数が330人。一人当たり2分話をしたとして、11時間掛かる計算だ。正直に言って、この時のことを私は良く覚えていない。おそらく、人生で最も多忙な3日間ではなかっただろうか。

 後日、父に尋ねた所

「俺はお前より出来が悪かったから、親父の質問に『100人』と答えたよ

 だからお前より数段大変な目にあった。

 だったら自分の経験を子に伝えるのが親の役目だろう」

 と言われた。


 そんな理屈が通るかこの駄目親父。


「大体だな、この国(うち)の力を考えて見ろ。大国も大国、超大国だ。

 媚びを売りに来る連中が万でも可愛いもんだぞ。

 お前は自分の国の力量も知らんのか?」


 確かに父の言う通りなのだが、素直に納得することはできなかった。

 もっともらしいことを言ってるが、顔が笑ってるじゃないか。


 ともあれ、昼は謁見、夜は祝賀の晩餐会。これが3日3晩執り行われた。

 国内外から多くの人が集まれば、年齢や性別、国籍も人種も多様化するのが普通であるし、他の国事でもそれは変わらない。しかし今回は他と大きく異なる所がある。祝賀客のほとんどが自家の娘を帯同していた、という点だ。

 改めて説明するまでもない。要するにお見合いである。聞いた話だと総勢2千人余、上は30代後半から下はまだ母親のお腹にいる子までという。


 まてまて。


 下はまだ良い。これから生まれてくる子でも、私自身7歳だから年齢としては釣り合わなくもない。しかし上はさすがにどうなんだ?


 これについても後日父に聞いた話では、過去には王と王妃の年齢差が40を超えていた例もあったそうだ。それも王妃のほうが年上で。


 ただこれは、その当時起こっていた継承権争いにより国が疲弊したため、事を収めるために王の叔母がやむを得ず、妻というより後見人の立場で妃に立った、という特殊な事例であり、王自身が求めて、と言う訳ではない。もちろん夫婦としての営みもなく、継承権に関する騒動が終焉を迎えた際に、その妃は役目を終えたとして退き、改めて妃が選ばれたという。


 良かった。前半を聞いた時には特殊な趣味のご先祖がいたのかと思わず焦ってしまったが、多分に政治的な理由によるもので、その妃も、妻というより母親代わりとしてその王に接していたというから、特殊な事情ではあっても特殊な性癖ではなかったようだ。

 ところで父上、前半部分しか説明しないで話を終わらせようとしたのは何故ですか?母上が慌ててフォローしてくれましたが。


 もちろん私にもそんな趣味はないので、その世代の女性については丁重にお断りさせて頂いたが、「過去にそういった事例がある」というのはなかなかに厄介で、随分と食い下がられたらしい。それでもようやく1600人ほどの人数になったが、いやまて、400人以上いたのかその年齢層。

 …ともかく、1600人全員と見合いをする訳ではなく、直接謁見する1000人に含まれる子女が200名程。昼夜問わず、娘の器量の良さを延々と述べる親と、隙あらば自分に注意の目を向けさせようと頑張る娘たちに挟まれ、疲弊の極致に達してしまっていた。

 3歳の娘が「今宵、お待ちしております」って、何を言ってるんだ。何を言わせてるんだ。子供は夜は寝なさい。

 父よ、今一度問いますが、こういうのは事前にある程度選別されているのものではないでょうか。笑ってないで答えろ馬鹿親父。


 そうして3日間が過ぎ、ようやく最終日を迎えて疲弊しきった私の前に、ギュスターブ公爵家の長子として伴われてきたのがリリアンヌだった。

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