入学式(リリアンヌ)③
「だから、なんで俺の名前知ってんだよ」
アレックスの問いに、私は返す言葉がなかった。
アレックス=ブルーム。
「ハトプリ」の基本シナリオからずっと登場している初期キャラ7人のひとり。
魔法属性は「風」。時間・空間系の操作を得意としていて、メイン武器は短剣。くせっ毛ぎみの髪と目は赤色よりの茶色。やや目付きは鋭く、言葉遣いも荒っぽいが、女性や子供には優しい性格。ただし、ヒロインにだけは何かと絡んできてちょっとした悪戯を仕掛けてくる、いわゆるやんちゃ系。生まれ育ちに訳ありのため、貴族や金持ちが嫌いだったが、「薔薇園」でヒロインや他のキャラ達と行動を共にするうちに貴族に対する考えを改め、協力するようになる。
ヒロインとのフラグは、新入生のヒロインが道に迷って困った所を助けたのがきっかけで、って、
あれ?これ、フラグ立っちゃってる?
「なにぼーっとしてんだよ。時間ないんだろ、さっさと答えろよ」
「あ、ああのその」
「ていうか、お前、誰なんだ?」
「あ。え、えっと、リリアンヌです。リリアンヌ=ギュスターブ」
私の名前を聞いて、アレックスが驚いた表情をみせる。
「おま、いや、あんた、ギュスターブ公爵ん所の娘か」
え、ええまあ。
「なるほど。じゃあ俺のこと、親父さんから聞いたのか」
え。どゆこと?
「ん?親父さんから聞いたんじゃないのか?俺の『薔薇園』入学に口を利いてくれたのはあんたの親父、ギュスターブ公爵だぞ。違うのか?」
そうなの?お父様そんなこともしてたんだ。
「ああそうそうそうでしたね!ようやく思い出しました!」
「なんか嘘くせえけど」
「そんなことないですよ。でも特待生とはすごいですね」
「まあ。俺達みたいな身分じゃあ、特待生にでもならなきゃ『薔薇園』には行けねえよ」
「才能がおありなのですね」
「どうかな。もっとも、それなりの自信がなけりゃ親父さんの話を受けたりしなかったさ。その点は公爵に感謝してる」
「さっき、『金持ちは嫌い』だと」
「嫌いだよ」
アレックスはきっぱり言う。
「嫌いだけど、それとこれとは別だ」
「そうなんですか?」
「あんたの親父さんがこの話を持ってきた時、一回は蹴ったんだよ」
なんで?
「『金持ちの施しなんぞいるか!』ってな。ところが親父さんは『施しではない』って返してきた」
「父は、何と?」
「『才能ある若者への先行投資』だと。だから、いずれ回収するからそれまで力を付けておけ、だとさ」
「父らしい話ですね」
「変わりもんだよな、あんたの親父さん。こんな身分の低い若造に肩入れするなんてな」
「それは、アレックス様次第ですよ」
「え?」
「父が人に『大した才能もない青年につまらない投資をした』と言われるのか、『さすがギュスターブ公爵。先見の明があった』と言われるのかは、これからのアレックス様次第です」
「…中々に、言ってくれるね、あんた」
「それと、気になってたのですが、そろそろ『お前』と『あんた』はやめて下さい。私には父母から頂いた『リリアンヌ』という名前がありますので」
アレックスは私の指摘に気が付くと、ばつの悪そうな顔で、
「あー…、悪かった。どうも口が悪いのが性分でな。悪気はなかったんだが、気を悪くしたんなら謝る」
そう言って、私に頭を下げた。口は悪いけどやっぱり根は良い人なんだよね、アレックス。
「あんまり貴族様とはお付き合いがないんでな。じゃ、なんて呼べばいい?『リリアンヌ様』?」
「それも今更でしょう。そのまま『リリアンヌ』で良いですよ」
「公爵子女を呼び捨てって、そりゃあ、ちょっと」
「アレックス様も今日から『薔薇園』に行くのでしょう?でしたら私と同級生ですから構いませんよ」
「まあ、そうなんだけど。じゃ、な、こっちからもひとつ」
「何でしょうかアレックス様」
「その『様』ってのもやめてくれ。体が痒くなる」
「では」
「あん…、リリアンヌと同じ、呼び捨てでいい」
「そうですか。では私もこれからはアレックス、と」
まあ「ハトプリ」じゃずっとそうだったから、こっちもその方が気が楽だ。
「ふうん」
「どうしました?アレックス」
「いや、意外に悪くないな、と思って」
「なにが」
「年頃の女の子に、呼び捨てにされるのが。うん、悪くない」
そういって、アレックスは勝手に納得してる。何だろうね?
「まあともかく、折角だし、公爵に少しばかり借りを返しておくか」
「父に、何を?」
「うん?だからリリアンヌを『薔薇園』に」
「それは、私がアレックスに借りを作っただけですから、父とは関係ないですよ?」
アレックスがきょとん、とした顔になった。
「アレックスが父に借りた分は、アレックス自身で返すべきですし、私がアレックスに借りた分は私が返すのが当然でしょう?」
「リリアンヌが俺に、借りを」
「ええ、いずれ返したいと思いますけど。どう返すかちょっと思い浮かばなくて」
「ふうん」
きょとんとした顔が、今度はにやにや笑ってる。
「リリアンヌは変わってるな」
「そう?普通だと思いますけど」
「いや、かなり、変わってる」
そうかなあ。
「おい二人とも、そろそろ10時だぞ、行かなくて良いのか?」
おじさんが私たちに声を掛けた。うわ、なんだかんだで30分近く喋ってたのか私たち。
「お?もうそんな時間か。じゃリリアンヌ、行くか」
「はい。よろしくお願いしますねアレックス」
「おう。そういやリリアンヌ、『転移』の経験は?」
「いえ。ありません」
私の周りに「転移」というか魔法自体使える人がいなかったからね。生活魔法以外は数える位しか見たことがない。
「そっか。じゃ、ちょっとだけ注意」
「何か、良くないことでも?」
「まあ、慣れの問題なんだけど、最初のうちは『転移酔い』することがあるんだよ」
「『転移酔い』?」
「まあそんなひどいもんじゃなくて、ちょっと眩暈がしたり、足がふらつく程度なんだけどな。まあ俺が一緒なら問題ないと思う」
「いなかったら?」
「転移先でふらっとした時に、たまたま馬車が、とか、目の前に壁が、って、分かるだろ?」
「ああ、あんまり想像したくないですね」
「そゆこと。まあ俺にしっかりつかまっときな。何かあっても支えてやるから」
そう言って、アレックスは私の腰を抱いた。ひう!
「な、なにを」
「言ったろうが支えてやるって。リリアンヌ、腰、細いな」
ありがとう嬉しいけどちょっと近すぎないかなああ!
「ほら、俺の首に手を回せって」
いやいやいや、それ私がアレックスにしがみついてるように見えるじゃない!
「おいリリアンヌ。ちゃんと引っ付いてないと、『転移』の時振り落とされんぞ」
「ふ、振り落とされるって」
「前、『転移』の途中で小銭を落としたことがあってな」
「それが?」
「どっかにぱっ、と消えて」
「き、消えて?」
「それっきり」
ひえええええ!怖い、怖すぎるよアレックス。
「だから、しっかりくっついてな」
「う、うん。分かった」
しょ、しょうがない。私だってどっかにぱっと消えたりするのは嫌だ。アレックスにぎゅっとしがみつく。
「じゃ、行くぞ?『転移』起動」
周りに光が立ち昇り、私たちを包み込む。あ、そうだ!
「おじさん!ありがとうございました!改めてお礼に来ますね!!」
「おう、気をつけて行きなよお嬢ちゃん」
「はい!行ってきます!」
そうして、私とアレックスは「薔薇園」へ転移した。
「ほら、もう着くぞ」
早っ!転移早っ!さすが魔法っていうかなんか色々とずるい。
いやー一時はどうなるかと思ったよ!ほんとアレックスがいてくれて助かった。でもこれ、なんかフラグくさいんだよねー。だって、ヒロインと展開そっくりなんだもん。でも私リリアンヌだよ?悪役令嬢なんだよ?なんか間違ってイベント発生してない?
うーん。あれ?
「ハトプリ」のアレックスルートは、ヒロインが遅刻しそうな所から始まってー、
そん時アレックスは「先輩だから助けてやる」って言ってー、
それでもギリギリだったから生徒会副会長の私が怒ってー、
生徒会長のアンディが「まあまあ」ってヒロインかばってー、
で、私がそれでまた「きー!!」ってなってー。
…あれ。ヒロインちゃん、今年は、いない?
アレックスに付けられた諸々の設定ですが、
バトル的要素になることはありません。
ラブコメです。




