幕間:王と2公
「少々、戯れが過ぎるのではないですか?」
剣呑な目付きで俺を見る。そんな目を俺に向けれるのはお前だけだよ、クロード。
「そうかね?」
「仮にも、将来の王配となる者を選ぶのです。慎重に慎重を重ね、しかるべき後に、最も相応しい伴侶を選ぶべきではないのですか?」
息子と同じようなことを言うんだな。
「そういう考え方もある」
「では」
「一方、『機を逃さぬ』という考え方もな」
「今回のこれが『機』だと仰りたいので?」
「どう見るか、は人それぞれだがな。しかし、クロード」
「…できれば、名で呼ぶのはお止め下さい」
相変わらずお堅いことだ。
「ああ、すまないハイランド公。貴公の家には我が子に嫁するような年頃の娘はいなかったように思ったが」
「…私が、ギュスターブ家息女の後釜を狙っている、と」
「気を悪くするな公。さっきも言ったろう、『機』を見るのは人それぞれだと。貴族、それも公爵ともなればその程度、息を吸うように行うのはしごく当然のことだ。なあグリフィス公?」
「…左様ですな」
「だがしかし、限度というか節度、というものはあるがな」
「…」
40前、は俺よりかなり年上だろう。悪いがさすがにそれはな。
「『貴族としての責務』を、ある程度認めるのは王としての器量でもあるが、際限なく許せばきりがない。そして今回は私の想像以上に話が動いていた」
「想像以上、ですか?」
「それは、どのような?」
「…どうやら、この婚約を潰したいものがいるらしい」
「…」
まあ、お前たちもそうだよな。
「問題は、『自分の娘を後釜に据えたい』のではなく、『エストニア=ディ=アンドルーと、リリアンヌ=ギュスターブの関係を壊す』のが目的らしい、という所だな」
「それは、何故に?」
「さあ。そればかりは当人に聞いてみなければ分からない」
「『当人』というと、その人物に心当たりが?」
「『あちら』ではな」
「『あちら』とは?」
「ああ、そこは気にしなくていい。要するに『そういう人物の存在は知っているが、それが誰かは分からない』そういうことだ」
クロードが口を挟む。
「話が要領を得ませんね。陛下はそれをどうするおつもりで?」
「まあ、見つけて、潰すだけだな」
完膚なきまでに。粉々に。微塵に、跡形もなく。
ん?どうした二人とも。えらく顔色が悪いが。
「…なぜに、そこまで」
「そりゃあ、息子と将来の娘のためだ。子のために親が骨を折るのは当然だろう」
「ではなく、なぜそれほどに、ギュスターブ家の息女に肩入れするのですか?」
それは、それはな。
「アンドルーが惚れているからさ」
「そのような、こと」
「『王は私情に惑わされず、国のために最も正しい選択をするべき』か?」
「…仰る通りです」
「まあ、それがあるべき王の姿だな」
「ならば、」
「だがな、この世には『そんなこと』どうでもいいこともあるのさ。」
二人の顔色が真っ青になる。そりゃそうだ。今、俺が言ったのは「王の責務の放棄」だ。王自身が口にして良い言葉ではない。
「そ、それはさすがに」
「聞き捨てならんか?ならば叛けばいい、兵を率いてな。いつでも受けて立つぞ」
二人は沈黙した。
「まあ、お前たちが心配するようなことにはなるまいよ」
「?」
「あれは、私やお前たちが思う以上に自分の立場を理解しているさ」
「…殿下が、聡明であることは存じております」
「私より余程良い王になる資質を持っているよ。私が親馬鹿である分を差し引いてもな」
「…」
沈黙は肯定か。ちょっと傷つくぞ。
「加えて、あいつは責任感が人一倍強い。ややもすれば己の身も滅ぼすほどにな」
「そう、なのですか」
「だからこその息女だ」
「?」
「お前たちも一度会ってみるといい。あの娘は云わば息子の箍だ。失えばあいつは壊れる」
「それほど、に」
「そして、あの娘にとっても息子は欠かせぬ存在になる。いや、もうなった」
クロードが、ぽつりと呟く。
「私には…人の情愛というのは、よく分かりません。人というものは、そこまで深く人を想うことができるものなのでしょうか…」
「さあ。正直、私にも分からん。ただ、何事にも『人知を超える』ということはあるものさ」
「ふむ。若いというものは良いものですな」
「グリフィス公は良いことを言う。さすが年の功だな」
「まだ老いたつもりはありませぬが」
「おうっと、それは失礼した」
やや場の空気が和む。
「そういうことだ。クロード、貴公にもいずれ分かる。そうすれば、姉君と打ち解ける日も来るだろう」
「いや、私は!」
「隠すなクロード。それは恥ではない」
クロードが黙り込む。
「ハイランド家の騒動に、手を打つのが遅れたことについては私の失態だ。素直に詫びよう」
「いえ、陛下といえども、公爵家の事情に口を挟むのが難しかったことは承知しております」
「そうだ。王といえどもできぬことはある。しかしな、私は『これから』に期待している」
「『これから』?」
「アンドルーとリリアンヌの、二人に」
「…」
「訳あって言えぬが、あの二人には大きな可能性がある。この国のありようすら変えるほどの、な」
「それほどのものが」
「まだ、不確定ではあるがな」
「ほう、それは興味深いですな」
「だから、あの二人を結ぶことには意味がある」
「それは、どのような?」
「まあそれは、あの二人を見ていればおいおい分かる」
「そうですか。それは、楽しみですな」
「期待は裏切らんよ」
「陛下がそこまで仰るのであれば、儂はお言葉に従います。公は、如何する?」
「…陛下の、ご意思のままに」
「そうか。ありがとう」
「礼など…、恐れ多いことです」
ならば、これからのことだな。
「話を戻す。破談を望むものの話だったな」
「何か、掴んでおられるのですか?」
「いや。よほど上手に尻尾を隠しているようだ。それに」
「それに?」
「どうやら戦略を変えたようだな」
「戦略?どのような?」
「まあ、まだ推測に過ぎんが、しばらくの間二人に手は出すまい」
「しかし、王。そのような話、初めて聞きましたぞ。俄かには信じられませぬが」
「まあ、『普通』は知らないことだ」
「?」
「そうだな、『王の責務』の一部とでも思ってくれ」
「私共に、全てを打ち明けて頂くことは、叶いませぬか」
「今はまだ、な。それに」
「それに?」
「今のお前たちが聞いても、理解できん」
「?」
「心配するな。いずれ全て話す、包み隠さずな」
「ならば、その時を待ちましょう」
それからは、アンドルーとリリアンヌの「婚姻の誓約」について話が移り、2公が辞去したのは日が沈むほんの前だった。
ふう。椅子にもたれ掛かり、大きく息を吐く。
「あなた、お疲れ様でした」
エリーゼが、茶とポットを載せたトレイを携えて傍らに来る。
「うん、さすがに今日は疲れた」
「でも、その割にはお顔が明るくていらっしゃいます」
「そりゃあ、親が子のために働くんだ。楽しくない訳がない」
エリーゼが笑う。やはり笑顔の居あう女性だね、君は。
「貴方は、本当にアンドルーのことが大好きですのね」
「君は嫌いかい?」
「とんでもない。私も大好きですわ」
「リリアンヌのことは?」
「もちろん。我が子と変わらぬほどに」
「そうか」
エリーゼがカップに茶を注ぎながら話す。
「先程のお話ですが」
先程?どれだ?
「ほら、『破談』を目論む、とかいう」
「ああ」
「本当に、そんな人が?」
「いる。確実に。この世界に、『破談』以上のものを求めてな」
それは断言できる。俺がここにいるんだ。あいつがいない訳がない。
「二人を、守れるのでしょうか」
「守れるか、じゃない。守る、必ず」
あいつらふたりは。俺が守る。
だからアンドルー、今度は必ず守るんだ。
「瑠璃」を。
「ハトプリ」上ではクロードも攻略対象です。幕間時点での設定年齢は23歳
「ハトプリ」開始時点で33歳。おじさま系隠れシスコン属性です。
姉のカチュアは6つ年上としています。




