干支達の夢 その十c 【ナンバー十】
酉年に寄せて書いた 年賀状に載せたショートショートです。
コッ、コッ……コッ……ココ、ドコ? クライノキライ……コッ……
アレ、ナンで? 何でこんなトコ? あれ? コッ、コッ……アッ! 光!
「博士! やりました! ナンバー十が遂に反応しました!」
ワタシ、ココにいる。考えるから存在してる? コッ、コッ……
「おお! 遂にやったか! ナンバー十、私の言うことが理解出来るかね?」
コッ、リカイ? コッ、考えが分かるコトか? ウン、理解出来る……
「おお! 成功だよ、君!」「博士、苦節十年、遂にやりましたね!」
私、ダレ? 何でこんな所に居る? 存在してる?
「ナンバー十、君はニワトリだよ。そして私達は人間だ」
私、ニワトリ? おお、ネット経由で勉強した! 鳥類だね……
「君、ネット経由での自動学習機能も成功してるみたいだな」「はい」
鶏、人間にとって鶏とは? 養鶏? フライドチキン? 鶏卵?
「何だか恐ろしい勢いで知能が上がって来てるみたいだな」「ええ……」
「これは……まずいな……君、ネット接続を遮断だ!」「はい!」
私達鶏、人間に利用されてる? 食べられる為に存在してる? 私達の幸せとは? 生まれてからずっと狭い所に閉じ込められ、そして……
「ナンバー十、どうしたんだ? 何をしてる?」
「博士! ナンバー十が呼吸を止めました! あっ! 心拍数も急激に……」
さよなら! 博士、そして助手の貴方。神様は正しい。鶏には考える力はいらない。それが神様の選択。三歩歩けば忘れる、それが正しい……
「おい! ナンバー十! おい!」「博士、これは……自殺なんでしょうか?」
「自殺だって? 鶏がかね? そんな馬鹿な……しかし……」
「呼吸を自ら止めての自殺? それにはかなりの強い意志がないと……」
「ああ、そうだな。ナンバー十は……そこまで進化してしまったのか」
「やっぱり鶏とのコンタクトは……しない方が双方の幸せかと」
「だな。今更ながら、だな」「はい……」
そうして博士の【鶏とのコンタクト、双方の意思の疎通作戦】は終わった。だが考えてもみたまえ。双方の立ち位置は余りにも違う。一方的に搾取する方が無理矢理に意思疎通を願ってもそれは無意味というものではないか? ナンバー十の言う通り、鶏には考える力はいらないのだ。それが神様の思し召しなんだろう。せめて感謝しようではないか。鶏達に!多謝!
鶏さん、ありがとう! そしてごめんね……