逃れ
泣きたい。泣きわめきたい。
もう何から逃げているのか、わからなくなってしまいそうだった。
膝が笑う。汗が噴き出す。耳鳴りがする。
内臓を射抜くような日差しは、背中から容赦なく照り付ける。
痛い。
ひりひりと、剥き出しの腕が焦げていく。それでもここで止まっているわけには、いかない。
逃げなきゃ。
独り渇いた喉から血のような吐息を漏らし、私はまた走り出そうとした。けれど。
ダメだ、ああダメだ、足がもう、動かない。
追いかけてくる音がだんだん近くなってくる。
おかしいな、ずいぶん引き離したはずなのに。
私、ここで終わっちゃうのかな…。
だってもう、逃げる気力もない。
何もかも動かない。
荒い息をついているのが、まるで自分じゃないみたいに遠く、遠く遠ざかっていく。
熱い、と思ったのは一瞬で、焼けたアスファルトに倒れこんだのだと気づくのに数秒かかった。
もう終わりだ。
父さん母さん、ごめんなさい。
もう聞こえない耳の奥で、近づいてくる音がする。
嫌だ、こんなところで終わりたくなかった。
感じなくなった感覚の中で、涙が伝うのがやけにリアルに感じられた。
ごめんなさい、人類。
最後の生き残りは、今ここで、終わりをむかえます…




