え、一人じゃないの?
群像小説のため、単話で読むと、場所が分り難いと思われますので、一応、1話ごとに場所を書いておきます。
異世界:アイリーン王国
◇ アキラ 二 ◇
まあ、夢を見ているという可能性が高いし、いや、そう信じたいだけかもしれないが、まずは心を落ち着かせよう。
リアルな感覚はあったが、そういう夢もきっとあるのだろう。
僕は深呼吸をして、心を落ち着かせようとした。
「あのー」
「うわ!?」
突然、声をかけられて心臓が跳ね上がる。
「あ、すみません、驚かせるつもりはなかったのですが……」
薄暗くてハッキリとは見えないが、少女がお辞儀をしたように見えた。
落ち着こうとしていた矢先だったため、めちゃくちゃ驚いたけど。
「まさか、同じ牢屋にもう一人入ってくるとは思いませんでしたので」
驚かせるつもりはなかったのか、申し訳なさそうにしている。
声や身長、雰囲気から、中学生くらいの年齢と思われる。
「君は、僕が入る前からここにいたってことだよね?」
収まらない動悸を、必死に誤魔化しながら、僕は質問をした。
……広めの牢屋で、薄暗いとはいえ、一時間も気配を感じさせないって、どうやったらそんな事が出来るんだ……
「はい」
視界に、少女の全身が入る。同時に、服装を見て、先ほどの疑問が解けた。
忍者の服装。正確には、忍者に近い服装と言った方がよいかもしれないが。
忍者とは限らないが、この世界にも、忍者のような存在がいるという事は分かった。
「たぶん、僕がここに入ることになったのは、予定外の事だったんだよ」
日本では、一つの房に何人も入ることの方が多いが、ここはそうではないらしい。
そう考えると、今回、一つの牢屋に二人入ることになった理由は、僕が牢屋に入った事がイレギュラーだったという事。
急遽、牢屋に入れる事になったと推測できる。
「……賢者様のような方が、このような場所に入れられてしまうとは、やはり、この国に未来はないのかもしれませんね……」
「………………」
自分が賢者のコスプレをしていた事を思い出す。
……どうしよう……本当は賢者ではない事を言った方がいいのかな……
でも、この子が何者かまだ分からないし、取り敢えず、その事に関しては保留にしておこう。
「この国に未来がないって、どういう事?」
「父が言っていました。エストリア女王は、ただの傀儡。大臣を中心とした貴族達がアイリーン王国を腐敗させていると」
今いる国は、アイリーン王国という名称らしい。
大臣とは、女王の隣にいた大臣の事だろう。確かに悪人面していた気がする。
「私は大臣暗殺のために、城に潜入したのですが、上位魔術師が大臣の寝室に拘束結界を張っていたため、捕らえられてしまったのです」
「………………」
……ツッコミどころが多すぎて、どうしようかと……
なになに、こんな子どもが大臣を暗殺?そういう世界なの?
それだけでも驚きなのに、魔術師とか出てきているし、この世界、魔法が使えるのか?
結界とか、完全にファンタジー世界だよ。
……あ、夢かもしれないんだった……
もし、夢だったとしたら、設定が細か過ぎ。
というか、この世界の忍者は、任務の内容を初めて会った人にこんなに話してもいいのかな?
「君みたいな子どもが、暗殺なんてしたらダメだよ」
取り敢えず、一番言いたかった事を、僕は少女に伝えた。
「でも、暗殺の任務は、私、もう何回もしていますよ」
少女はあっさりと答えた。
……うーん、やっぱり、この世界は、僕が作り出した夢だ……
子どもが、暗殺をする事に躊躇のない世界なんて、僕は認めたくない。