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魔王様なる仕事を始めました  作者: 楽天家侍
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プロローグ

や…、やっちまった…。


今、俺の足下には、ゲームで見掛ける、黒マントに厳つい鎧姿の魔王コスプレイヤーが転がっている。しかも鼻血を出しながら白目を剥いています。歯は恐らく複数抜けている模様。

さてその理由と言いますのが、お察し出来る通り、俺が彼の顔面を殴ったから。


だって行きなり襲って来たんだぜ?しかも大勢で!

こっちは俺と親友しか居ないのに、多勢に無勢の状況。


それでも俺達が無傷なのは、共に習得していた空手の御陰である。


「サトシ。怪我は?」


「無い。そっちも無いな?」


「ああ。…にしたって、何処だ?此処」

親友の返答に安心し、ついつい忘れかけていた、自分達の現状を宙へ向けて呟く。


確か俺達は、習い事からの帰り途中だった。それが急な頭痛と目眩に襲われ、次に頭を上げた時には、今の暗い煉瓦造りの古城らしき内部に居た。

人が居ないか探索していたら、コスプレイヤーに侵入者と騒がれ、彼が呼び集めた武器所持の狼男もどき連中に襲撃され、ついつい二人共応戦してしまい、コスプレイヤーが増員させようとするもんだから拳で殴り飛ばして…。


あ。俺の名前は久福木(クフクギ) (ツカサ)。空手は黒帯の有段者で、現役高校生です。ピチピチの16歳なりたて。…はい。今日正に誕生日です。そんな目出度い日に、何の罰ゲーム?

凹む俺を余所に、親友は応戦中らしき人物と何か話していた。恐らく、此処が何処なのか聞いているのだろう。本当に冷静な奴だ。

所が彼は振り向き様、冷静に爆弾発言を投下。


「おい、凄いぞ。お前が倒したの、この城の魔王だって」


何言ッテンノ、オ前?


そう言おうと思ったが、余りの驚愕の発言に声が出ない。

しかし顔に書いてあったのか、彼は落ち着いて解説する。


「いや、本当らしいぞ?で、此処は魔王城で、そこに転がってある元魔王の城だとさ」

「ちょっと待て!お前、そんな二次元地味た話を現実的に受け止めてんのか?」

「俺も疑ったさ。だが、話を聞くうちに現実味が湧いた。大体、現状からして否定要素あるか?」

焦りから来る戸惑いに混乱状態の俺へ、彼は一切動じる事無く冷静沈着に話す。

そりゃ、魔王城っぽいなとは思ったよ?けど、何だってそんな場所に俺達が居る訳?

それと元魔王は弱すぎだ。拍子抜けする…ん?


「元?」

「ああ」

「何故?」

「お前が倒したから」

「…と言うことは?」

始終冷静な親友の言葉に、波のように押し寄せて来る不安と恐怖。次の返答が予想出来る故に、そうじゃないと言って欲しかった。

でも、現実って甘くないよね?


「おめでとう御座います!新魔王様の誕生です!!」


突然騒ぎ出したコスプレ集団に、俺は親友の口から明かされなかった事への安堵と、これからの自分の立場に気が遠のく。

俺…どうなっちゃう訳?


「良かったじゃないか。ついでに生誕祭もやってもらおうぜ?」

「え!?と言うことは!?」

「そいつ、今日が誕生日なんだよ」


サトシ、余計な事を言うんじゃねぇよ。


怒りの余りに彼の両頬を摘んで引っ張ると、彼も応戦して来る。

滅多に表情を変えない奴だが、長年の付き合いで今の彼は上機嫌なのが分かった。


お互いに微笑ましい喧嘩をしていると、コスプレ集団の中から、オウム頭の男性が出て来る。


「それは重ねて目出度い!皆の者、宴の準備に取り掛かるぞ!!」


「せんで良い、せんで良い!」


オペラ歌手の如く歌い上げたオウム頭を筆頭に、その場にいた奴らが全員行動に移すもんだから、必死になって止める。


こうして、俺の異世界での魔王様人生が始まりました。


+--+--+--+--+--+--+--+


(平原 佐毅目線)


俺と親友のツカサちゃんは、母親同士が同じ産婦人科で出会ってから、ずっと一緒に育ってきた。

健康優良児として生まれた俺と違い、ツカサちゃんは一週間遅れに未熟児として生まれた。


3歳の頃、ツカサちゃんのお母さんが、彼に親戚が開く空手を習わせる話を俺のお母さんにして、その流れで俺達は空手を習いだした。


ツカサちゃんは努力家で、その努力の成果が出たのは、小学校高学年になってからだった。中学生には俺と同じ黒帯を巻いていた。


それから先は、彼と手合わせをして競い合った。


あの日も、そうだった。


習い事帰り、いつものように戯れ合って帰路を辿っていた。


ところが突然の頭痛と目眩に襲われ、気付けば、今は親友の城となった魔王城にいた。


あれから早くも数年。


俺は、魔王となった親友の側近の一人として仕えている。他にも、前魔王のクラシス、その前魔王に拉致されて長年書記官として仕えていて、引き続き新魔王に仕えると契約したオウム頭のエミールさん。特攻隊長は、半人半馬の擬似ミノタウロス、アドルフさん。他にもたくさんいます。

彼が魔王になったことにより、魔界の政治もゴロッと変わり、最初は戸惑っていた魔界の住民達も、今では前の生活が嘘みたいだ。と笑顔で暮らしている。


親友が唱えた新政治は、反戦国家、民主主義の二つだけだ。この二つだけでも、2年前まで大量の書類に埋もれ、親友とエミールさんの仕事量は半端じゃなかった。

かく言う俺も、エミールさん頼みで、美形コンビと称されて、クラシスと共に下界の人間達が住む国まで足を運んだりしていた。要は出張演説だ。


ツカサちゃんの役に立つなら、俺は何だってするつもりだったので、美形というのには理解し難いが、何とかなってくれたようで良かった。


そして今、俺は正しく親友の自室へと向かっている。

珍しく寝坊しているらしく、からかい目的で起こしに行っている。

まぁ、寝坊の原因には心当たりがあるから、『起こしに行く』と言うよりは『救出に行く』と言う方が正しい。


東の館に魔王の部屋があり、そこにツカサちゃんは就寝している。扉は鉄で出来ていて、錠前まで付いている。何故かというと、人間だからだ。


何かあってからでは遅い!という心配性なエミールさんの鶴の一声ならぬオウム頭の一声で、現在の魔王の部屋が完成したのだ。


俺の部屋も同様だが、流石に錠前までは付いていない。俺の強さを知っているからか、同じ人間種の俺の心配はツカサちゃん以外誰もしていなかった。


別に構わないが、ツカサちゃんに心配してもらったのは嬉しかったな。

彼の部屋の前で足を止め、落ち着いてゆっくりノックを2回する。


「はい〜?」


「魔王様。サトシです」


「分かった。今出るから、ちょっと待って」


親友の変わらない口調から、どうやら今回は普通に寝坊をしたらしい。珍しいな…。


ドアが開くと、青いロングコートを金細工のボタンで留めた、白パンツ姿の親友。茶色のロングブーツを履きつつ出て来たので、やっぱり奴らが関係してるっぽい。

何はともあれ、こうして俺達の魔界での一日が始まった。

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