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『ミツイのトリセツ』  作者: 三衣 千月
前編 24才のミツイ
2/23

-01- ミツイを取り扱うにあたって

以前、情報局でCMを入れたエッセイ集、投稿開始です。

三衣は普段、こんなことを考えているのだなと阿呆振りを笑っていただければ幸いです。

 三衣氏を取り扱うにあたって、この取扱説明書は大いに役に立つものである。なぜならば、この説明書には三衣氏の行動、言動、趣味、妄想に至るまで、本人が隠しておきたいと思っている事に重点を置いて氏のアレコレが記されているからである。

 無論、三衣氏はモノではない。家電製品よろしく、電源入れて動かすようなものではないし、氏のどこかに夜間照明が取り付けられていて、スイッチを押せばぺかぺかと光るわけでもない。


 しからば、何を以ってして取扱説明書とするのか。

 先人は言った。人を知るには、相手を見よと。そして、人を動かしたくば、相手の周りを見よと。

 ゆえに、これから記されていくのは有り体に言えば、三衣氏の過ぎ去った青春であり、忘れたい過去であり、また忘れる事の出来ない過去である。

 これを知れば、三衣氏を扱うに困る事はないだろう。無論、「扱いたくもねえ」という方が大半を占めている事を、充分に承知はしているが。

 

 しかしながら、三衣氏が「学生時代だけは勘弁してくれ。後生だから」と泣きむせびながら頭を地にこすりつけて懇願してきたので、心の広い筆者は必要な時だけ、必要な文量を書く事を約束したのである。



 

   ○   ○   ○




 ともあれ、三衣氏について語っていかなければならない。ここ数年の行動ではあるが、三衣という人間を知るには、この数年が最も分かりやすいだろう。




―――三衣氏の体調について



 数年前からこちら、三衣氏は不調である。当時は随分と酷い有様であったのだ。 今でも色々な意味でヒドイ有様と言えるかも知れないが。

 腹の肉どころか全体的にふっくらと肉付きがよくなり、大黒か布袋かはたまた恵比寿でも目指しているのかと尋ねたくなるときがあった。


 当人は「少しくらいふっくらしてた方がカワイゲがある」等とのたまっていたが、三衣氏にそもそも可愛げなどないのである。

 「2割り増しでイイ男になった」とも呟いていたが、ゼロに何を掛けてもゼロである。



 また、三衣氏は酒が好きである。昔からさして強い方でもなかったが、なにぶん好きなのである。 学生時代には、飲んでは吐くような下手な酒も飲んだが、気の置けぬ仲間達と朗らかに上手い酒も飲んだものである。


 恋に破れ、慰めてくれる友と共に、酒と泪と男と男などという訳のわからぬ状況をつくりだした夜もあったという。

 そんな三衣氏であるが、この頃はめっぽう酒に弱くなっていた。それまでに輪を掛けて弱かったのである。


 缶ビール1本で悪酔いしてしまう状況に氏は落胆していた。これは今でもそうであるが、酒精が腹の中でぐるぐると暴れ回り、少しも楽しく酔えないそうだ。


 落ち込みながら、酒と泪と男と男を独りでやっているのである。これはもう、最悪どころか災厄である。うまい酒を飲みたいと呟く三衣氏であるが、その願いが叶う目処は今の所たっていない。



 酒の楽しみを奪われた三衣氏は、その憂さを晴らすために歌を唄う。氏は歌も好きなのである。

 なにかと理由をつけて単身、カラオケに繰り出すのであるがここのところはどうにも鬱々として帰ってくる。

 曰く、下手になったそうである。音ははずれ、喉は掠れる。三衣氏は、ここでも不調に見舞われている。

 さらには食事がうまいと思えなくなってきたらしい。食材の買出しでも食べたいものが浮かんで来ない。食べる事に楽しみを見出す三衣氏であるが、そうなってしまった原因について、氏はまったく心当たりが無かった。

 氏は仕方なく安売りのカップ麺と好物のチョコミントアイスをさしてうまくもなさそうに腹に入れていたのである。


 「味の分からぬ人間になってしまった」と不機嫌そうにこぼしていた。







 三衣氏の生活は食べ、飲み、歌い、時々仕事と、随分気楽なものであった。

 では残った仕事に精を出せば良いと思うのだが、氏は「和を以って人と成す。他が不調ならば、仕事も不調でなくてはいかん」と言う。


 随分と立派な屁理屈である。「屁理屈も理屈のうちだ」などと言っている場合ではない。


 不調は一時的なものであると氏は言っていた。まるきり根拠がなかった上に、数年経った今でも不調の尾を引いているところから見れば、そう思い込みたかっただけなのだろう。

 現在まで続く不調の波に、三衣氏は物理的にも重くなってきた腰をようやっと上げ、ここ数年の出来事を反芻するのである。


 そうして、この状況を打破せんと、三衣氏は知恵を絞っている。


 絞るなら腹の肉であると思われるが、そこには目を瞑るらしい。


 そして目を瞑って「何も見えん」と当たり前の事実を呟くのだ。


 結論、三衣氏は、どうやら阿呆であるらしい。



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