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「あ、すごい。動きました!」
真緒は目をパチパチ瞬かせ、静かに感動した。
「そう、動いた。手で動かしたんじゃなく、呪術でね。これは、石を動かしたいという思いと想像、それと体内に蓄積された魔法エネルギーが組み合わさり、それを対象物である石に移すことによってできるんだ」
「石に移す?」
「そう。移すんだ。魔法エネルギーをね。近くにあるものなら別に杖を使わなくたっていい。直接手で触れて、それをどうしたいか強く念じればその通りになる。口に出して言葉にした方が、言葉にしないより伝わりやすくて確実でいいけどね。体の中にあるエネルギーが、手から石に伝わってそうなるんだ」
導士が石を手の平の上に乗せると、石は瞬く間に砂となり、手からこぼれ落ちた。
「ただ、直接触れる方法だと、デメリットもある。遠くのものを動かせないし、もし術が失敗したら自分に大きくはね返ってけがをしてしまうこともある」
「術が失敗することってあるんですか?」
真緒は導士に尋ねた。
「ああ、もちろん! 特にきみのような見習いたちは新しく習うことが多いし、術を使うことに不慣れだから、失敗も多く経験すると思うよ」
「そ、それじゃあ、失敗して術が自分にはね返ってきたら……どんなけがをするんですか?」
「術にもよるけど、大抵は体が麻痺したようにしびれたり、めまいや吐き気がしたりするね。ひどいものだと、耳鳴りや頭痛がして、麻痺した感覚がもとに戻らなくなってしまうこともあるよ」
それを聞いて、真緒は青ざめた。そんなおそろしい危険性があるとは思いもよらず、それを想像するだけで気分が暗くなる。
うつむいて黙っている真緒に、導士が慌てて言葉を足した。
「まあ、だからみんな、術を使うときは手袋をするんだけどねっ。ほら、こういったの、きみも道具店で買ってもらったでしょ?」
ズボンのポケットから黒の皮手袋を引っ張りだし、真緒に見せる。手袋の下の方には、真緒が読むことのできない暗号のような文字が書かれていた。
「この手袋は、術のはね返りを防ぐ役割を果たすんだ。僕みたいな導士にまでなると、手袋をしなくても失敗するようなことがないから大丈夫だけどねー」
「じゃあ手袋をしていたら、失敗して術がはね返ってもけがをしないで済むんですね」
「うん、そうだね。エネルギーを放出する方の手にすれば大丈夫。だけど、間違って反対の手にしたら……なんか、きみってそういう初歩的なミスをしそうだよね」
いきなり言葉の刃が、ぐさっと真緒に刺さる。真緒はぷくっと頬を膨らませ、導士をにらんだ。
「勝手に秘人を判断しないでください」
「あはは、ごめんごめん。それは僕の悪いところで、ついつい……」
笑いながらそう言って、導士は大きなため息をついた。
「そ、そんな落ち込まないでくださいよ」
「うん、落ち込んでないよ。導士やってるとさ、ついつい見習いちゃんをからかったりしたくなるんだよー。ほら、好きな子をいじめる男の子っているじゃん? まさしくそれと同じ! だから僕の愛情表現、みたいな?」
「理解できません。なんだか……中野導士って子供みたい」
ぼそりと真緒が言うと、導士はショックを受けたのか、顔を歪ませた。
「真緒ちゃん、きみも言ってくれるじゃないか……。でもね、男はいつの年でも子供なんだよ。理解できないとは思うけど」
うーんと真緒は理解しようと考えたが、やはり真緒には意味不明で頭が痛くなるだけだった。
「あー話がそれちゃってるよ! どこまで話したっけ? あ、そうそう、思いだした! 話戻すけど、いい?」
導士の言葉に、真緒が深くうなずく。導士は再び呪術の話をしだした。




