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「新見習いなら、誰もが受けるんだ……血を捧げた直後に、祝福を……光を、な」
「ひか、り……」
それは、どんな光なのだろう? 知らなかった真緒はそう思いながら、ぼう然としていた。まだ授業がはじまってもいないのに、もう秘密がばれてしまった。隠し通すのをやめて気が楽になるが、それは束の間だけ。これから先のことを考えると、絶望の足音が聞こえてきそうだった。
「心配、するな……お前のことは、秘密にする。だから……早くっ……」
また貴夜の呼吸が大きく乱れはじめた。背をまるめ、頭を押さえながら痛みをこらえる。その姿を見てはっと我に返った真緒は、急いで立ち上がった。
「ご、ごめん。すぐに助けを呼んでくる!」
そう言葉をかけ、においを消せそうなものはないかとあたりを見回す。視線の先にはなにもなく、床に壊れた小物などが散乱していた。
売り物にならない、がらくたの海。倒されたいくつもの棚。割れた瓶から漂ってくる、甘い香り。
「あっ、香水!」
真緒は足元に転がる割れていない瓶をいくつか拾い、中身を確かめた。同じにおいのものが2つあり、それらのふたを開けて体中に振りかける。すると、強烈な甘い香りが鼻を突いた。
「う、うえっ……吐きそう。つけすぎだけど……これなら大丈夫かな」
真緒が出入り口に着く頃には、鼻が麻痺したせいか、くらくらする感覚が治って元に戻った。扉のあった場所からそおっと顔を出し、周囲をうかがう。まだ怪物が潜んでいるかもしれない。そう思うと、真緒の心に忘れていた恐怖が込み上げてくる。けれど、貴夜の様子が気にかかった。腕のけがを治す頃から、貴夜は1度も目を開けていない。そのことに胸騒ぎがした真緒は、勇気を振り絞ってすぐに大通りまで行くことにした。
大通りに出ると、怪物だけでなく秘人ひとり、いや、動物1匹すら姿を見せない。しん、と静まり返っていた。
それはそれで怖いと思いつつ、真緒は甘味楽園とは反対の方向に歩を進める。だが、暗闇の中いくら歩いても、誰もなにも見つからない。その状況に焦り、とうとう声を出した。
「誰か、誰かいませんか?」
はじめのうちは小さかった声も、だんだん大きくなった。そしてしまいには、泣きそうになって叫んだ。
「誰か、誰かいないんですかー! お願いです、誰か助けてください! お願いします! 誰か、誰かっ!」
真緒が走り回っていると、ふと、遠くから秘人の声がした。
「おーい! こっちだ、こっちー!」
真緒の方に向かって、背の高い男性が手を大きく振っている。それを見た真緒は、急いで駆け寄った。
「あ、あのっ……」
片ひざに手をつき、胸を押さえてうつむく。ぜェぜェと乱れた呼吸を整えながら、完治していない体が倒れないように、気をしっかりと持った。
「きみ、ここにいたら危険だ。私たちと来なさい。皆はもう安全な場所に避難しているよ」
「ま、待ってください! まだ……まだ、向こうに秘人がいるんです」
真緒が顔を上げると、その男性はあっと小さく驚いた。
「あれ? きみは確か……」




