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「ん?」
真緒は視線を自分の腕に落とした。貴夜が左手で真緒の腕を軽くつかんでいる。
「あ……頭は……無理だ。多分……効かな……うっ」
貴夜の口から荒い息とともに言葉が発せられた。眉間にしわを寄せ、真緒の腕をつかむ手にぎゅっと力が入る。
「だっ、大丈夫? 無理しなくていいよ。えっと、えっと……じゃあ、残りの液も、腕にかけるね?」
真緒がそう言うと、貴夜は小さくうなずいた。
「腕は、もう大丈夫だと思う。悪い、助かった。でも……お前は、大丈夫なのか?」
真緒の手当てする作業が終わると、貴夜は確認するように右手の平を軽く閉じたり開いたりする。腕の傷は完全にふさがっていないが、血は止まっていた。
「大丈夫だよ。私も、さっき黄繕液を使ったから。でも、そのせいで……貴夜くんの傷を、きっちり治すことが……ふっく……できなくて……っく……ご、ごめっ」
真緒は目に涙をためた。話す余裕ができたものの、貴夜はまだ苦しそうに顔をしかめている。瞳も閉じたままだった。
「お前の、せいじゃない、だろ? 俺もお前も、今こうやって、生きてる。けど、助けを呼ばないと……。お前……行けそうか?」
「うん、多分行ける。ううん、大丈夫! 任せて。ちょっと時間がかかるかもしれないけれど、必ず誰か見つけて、呼んでくるから」
真緒は涙を拭って、貴夜の手をそっと離し、立ち上がろうとした。が、貴夜に呼び止められる。
「待て。お前……その前に、そのにおいを消せ」
「へ? におい?」
真緒の目がぱちくりした。なんのにおいだろうかと、服のにおいを嗅ぎながら、小首を傾げる。
「においって?」
「その……わからないのか? お前の、その、血のにおい」
「……え?」
ぞくっと真緒の体に寒気が走る。
“けがは絶対にしないこと”
“秘人の中には、視覚・嗅覚・聴覚など鋭い奴がいる”
“血でも流したら、あんたが何者かわかってしまうかもしれない”
おばさんの言葉が蘇る。真緒はまさかと思った。入儀式の血の献上をしたときは、誰にも気づかれていないようだった。だから、血は流しても大丈夫だと心のどこかでそう思い込んでいた。
「もう確かめなくてもわかる」
貴夜の声が冷たく響いた。
「お前は、秘人じゃない」




