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そんなつらそうな貴夜を目の前に、なにもすることができない真緒の心は張り裂けそうだった。込み上げる感情に、のどの奥が突っかかって息苦しくなる。なにか、どうにかして、貴夜を助けることはできないのだろうかと思案した。
「あっ」
少しして、あるものが頭に浮かんだ。
真緒はゆっくりと手を動かし、パンパンに膨れたポーチの中から小さな箱を取った。
“黄繕液” これならきっと、ある程度の傷なら治せるはず。箱の中にある、コルクの栓をした茶色い瓶を取り出し、それをまじまじと見つめた。
「貴夜くん、待ってて。今、そっちに……行くから」
そう言って両手を床につき、上体を押し上げた。瞬間、ビリビリッとした痛みが背中を走り、胸が圧迫されて息ができなくなる。
「うぐっ……」
あまりの苦しさに吐き気までしてくる。それを無視して動こうとすると、腕の力が抜けて床に突っ伏してしまった。この状態では少しも動けない。痛さと悔しさで、また涙がこぼれた。
真緒の頭から血がしたたり落ちる。貴夜の右腕からもそれは流れ、ふたりのいる床を徐々に赤く赤く染めていく。
真緒はその光景を見つめながら、このまま死ぬのかもしれない、そう思った。寒気がして、頭や心臓が脈打つのを感じる。真緒の心に、ある感情が沸き起こった。
「貴夜くん、ごめんね」
やむを得ず、真緒は黄繕液の栓を抜き、量を調節しながら自分の頭と上半身に振りかけた。
しばらくすると、重く感じた頭は軽く、胸の圧迫感も緩和されて呼吸がしやすくなった。少し動かしただけで痛む上半身も、ゆっくりとなら痛まない程度になっている。
これならもう大丈夫。そう思い、今度こそ体を起こして立ち上がる。けれども足元がおぼつかない。貴夜の方へ数歩進むが、熱があるみたいに歩く感覚が麻痺していて、1度はその場にへたりこんでしまう。やっとの思いで貴夜のそばまで来ると、貴夜の顔色が非常に悪いことに気づいた。
「貴夜くん!」
真緒は叫んだ。
汗と涙でぬれた紺藍色の髪。さらに青白くなった肌。赤紫の瞳は閉ざされ、くちびるが紫に変色していた。
「大丈夫じゃ……ないよね。ごめんね、私のせいで……」
今にも消えてしまいそうで苦しそうな貴夜の呼吸する音を聞きながら、真緒は急いでポーチの中を探る。
「あった!」
ポーチの中にもうひとつあった黄繕液を手に取り、すぐに箱を開けた。
「ど、どうしよう? とりあえず……腕が、先かな? 腕からするね?」
真緒はコルクの栓を抜いて、貴夜の赤い右腕に少しずつ液をかけた。そしてその後、ハンカチで優しくあてるように腕の血を拭う。傷は予想以上に深く、瓶の半分の液を使っても足りない。
「頭や目も気になるんだけど……腕の血を止める方が先だよね? ああ、でもどうしよう……貴夜くん、どっちの方が痛むんだろう? 答え、られないよね?」
そう言って、真緒が貴夜の顔と腕を交互に見つめていると、ふっと、なにかが真緒の腕に触れた。




