5
「ねぇ、貴夜くん……」
真緒の心がざわつく。体を起こしてどうにか貴夜の元へ行こうとするが、思うように動けない。頭はふらふらするし、言葉を発するだけでも息が上がる。
「貴夜くん」
泣きそうな、ふるえる声でもう1度呼ぶ。言うことを聞かない体にむち打ちながら、床にはいつくばってでも貴夜に手を伸ばした。けれどもその手は届くこともなく……。視界が涙で滲んでいく。声にならない声が口からもれた。
嫌だ、嫌だよ。さっきまで元気だったのに、そんな……嫌だよ。どうして? どうして返事してくれないの?
真緒がそう思っていると、仰向けになっている貴夜の体がピクッと動いた。
「た、貴夜くん?」
錯覚だろうか? 真緒は目をこすって瞬きした。貴夜の方から小さなうめき声が聞こえてくる。
「う……あ……」
貴夜はなにか言いたそうだった。けれどもそれは苦しい叫びのようにも聞こえ、真緒はなんて声をかければいいのかわからず、黙って見ることしかできなかった。
「ああ……あがっ……」
貴夜の左手が動く。ふるえながら天井に向けて伸ばす様は、救いの手を求めているようにも見え、真緒の目に痛々しく映る。
「たっ、貴夜くん!」
「あ……う……あ……たまが……」
「貴夜くん! 私はここにいるよ……大丈夫だよ」
「あた、まが……めが……」
「え?」
真緒が観察するように貴夜を見つめる。
貴夜はふるえる左手をおでこに乗せ、右脚を三角に曲げて立たせた。大量の汗をかき、浅い呼吸をしている。右手の腕からは血が止まることなく流れていた。
「目、が……目が……見えない……頭、が……痛い」
「そ、そんな……どうして?」
真緒は、わけがわからなかった。貴夜が腕のけがをしたのは見ていたから知っていたが、頭などは知らない。竜との戦いを回想しても、そんな場面が出てこない。自分の知らないところで、けがをしたのだろうか。
「くっ……はっ」
貴夜の口が酸素を求めるように大きく開いた。目尻から、透明のしずくが流れて髪をぬらす。




