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危険信号が頭から全身に送られ、真緒は急いでその場から離れた。
見ると、棚はドミノ倒しのように次々と倒れ、すべての小物が落下する。パリンッ、ガチャンッ、ゴトンッとさまざまな音が鳴り、不協和音が店内に広がった。
真緒は耳をふさごうとしたが、竜が近くにいてそれどころではなくなる。そして逃げようとしても、まったく隠れる場所がないことに気づく。
どうすればいいのか真緒がおどおどしていると、どこからともなく長いなにかが飛んできた。竜がしなやかな体を横にひねって、勢いをつけて長い尾を振っている。
あっと気づいた時にはすでに遅く、真緒は竜の強靭な尻尾によって、貴夜がいる壁まではじき飛ばされてしまった。
「うっ……痛い」
腕や背中を強打し、息ができないほどに苦しむ真緒に、貴夜がけがをした自分の右腕を押さえながら近寄った。
「おい、大丈夫か? なんで……なんで、逃げなかった?」
「たっ……貴夜、くん?」
近くにいる貴夜に気づき、真緒はゆっくりと体を起こそうとする。けれども体中が悲鳴を上げ、再び息が詰まりそうになる。頭からは温かいなにかが流れ落ち、それを見た貴夜の目が大きく見開く。
真緒はどうしたのだろうと自分の頭にそっと手を伸ばした。どろりとした感触が伝わり、思わず手の平を見る。赤い液がべったりついていた。
「あ……あ……」
ガタガタと真緒の体がふるえだす。
「大丈夫……大丈夫だ。お前は……そこにいろ」
貴夜が真緒を落ち着かせるように、優しい口調で静かに言う。
「心配するな……俺が、なんとかする」
よろめきながらも立ち上がり、姿勢をピンと正した。綺麗な赤紫の瞳が、いつになく強く輝く。そして鋭い目つきになり、ふたりの方にやってくる竜を見据えた。
「次は、失敗しない」
誰に言うでもなくきっぱりとそう断言し、長方形の紙を1枚、手にした。
貴夜と対峙する竜が翼を広げ、大きな口を開けて襲いかかってくる。それをひらりと横にかわし、近くに転がる箱を竜の頭にぶつけた。そうして真緒のいる場所から少し離れたところに誘導すると、左手の指に挟んだ紙を前に突きだす。紙には血の混じったインクで変な模様が描かれていた。
「操られしものよ、その力を無に帰し、元の姿に戻れ」
貴夜がそう唱えたとたん、紙にぽうっと黄色い光がともった。
竜はそんなことに気を取られることもなく、大きな足音を立ててやってくる。真緒の時と同様、長い尾を振り回して攻撃するが、貴夜がジャンプしてそれをかわす。そしてそのまま、竜の無防備な背中に着地して、左手に持つ長方形の紙をはりつけた。
瞬間、竜の動きがぴたりと止まった。
貴夜は竜の背中からずるりと滑り落ち、ごろりと床に転がった。荒い呼吸を繰り返し、しばらくそのままじっとする。竜が動かなくなったのを横目でとらえると、はぁーっと盛大に息を吐いた。
その様子を見守っていた真緒も、やっと心を落ち着かせた。
「貴夜くん、大丈夫?」
しばらくして、真緒は声をかけた。が、貴夜から返事がない。




