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次の瞬間、激しい音とともに竜が扉を突き破ってきた。
リュックから小さな瓶を取り出した貴夜は、素早くそのふたを開ける。ローブの内側から数枚の紙も取り出した。瓶は、さっき文具店で購入したもので、黒いインクが入っている。それに指先を浸したところで、竜が勢いよく貴夜の方にやってきた。
ぎりぎりのところで貴夜は竜をかわした。走って棚と棚との間を走り抜ける。竜が追いかける。
身を潜めていた真緒は近づいてくる竜の足音にはっとして、様子をうかがうようにちらりと棚の陰から顔を出した。立ち止まった竜がすぐ近くにいる。
真緒は目を大きく見開き、硬直した。竜の鼻息が聞こえ、心臓が激しく高鳴る。全身の毛穴がぶわっと開くような感覚。息をするのも許されないように思い、ふるえる手でそっと口元を押さえる。視線はいつ振り向くかわからない竜に向けていたが、ゆっくりと顔を引っ込め、見ないようにした。
竜がまた動き出す。幸いにもその足音は真緒から遠ざかるが、安心はできない。真緒の頭に、貴夜の顔とおそろしい竜の姿が浮かんだ。
意を決し、真緒はほふく前進するように床をはって移動する。その時、貴夜の声がした。
「今だ、逃げろ!」
それが自分に言われているものだとわかり、真緒はよろめきながらも立ち上がって、扉のあった出入り口を目指して走る。
だが、出入り口付近にやってきたところで足を止めた。すぐ近くに竜の後ろ姿が見え、その後ろ姿に隠れるようにして貴夜の姿がある。
……ポタポタッ。
赤い血が床に落ちた。竜の鋭い牙が貴夜の腕に深く食い込んでいる。
貴夜は歯を食いしばって激痛に耐えながらも竜をにらみ上げていた。上下する胸の動きに合わせ、苦しそうな息が歯と歯の間からもれる。痛さで叫びそうになるのを必死にこらえているようだった。
その光景を見た真緒は、一瞬悪い夢でも見ているのではないかという感覚に襲われた。そして、めまいを起こしそうになり、膝が折れそうになる。だが、頭をブンブン横に振って、これが現実なんだと自分にわからせると、急いで近くにある少し大きめの瓶を両手でつかみ、竜の背中めがけて思いっきり投げつけた。
竜が貴夜の腕から口を離し、振り返る。
「あ……」
真緒は竜と目が合い、片足を1歩後ろに引いた。
飛ぶようにして竜が真緒の方にやってくる。
慌てて真緒は逃げ出した。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。真緒の頭の中を同じ言葉が駆け巡る。
このままだと殺される。そう思った瞬間、真緒の体に棚が覆いかぶさってきた。竜が真緒の隣の棚を倒したのだった。
とっさに両手で頭をかばってしゃがみ込む真緒。ぎゅっと目を閉じた。棚に飾られた小物のいくつかが床に落下し、割れる音がする。
だが、棚は一向に下りてこない。
あ、あれ? そう思って真緒がゆっくり目を開けると、倒れかかってきた棚は真緒の反対隣の棚にもたれていて、ちょうどその下にできた空間に、真緒がいる状態だった。
真緒は運良く助かったことにほっとした。が、そう思っているのも束の間、倒れてきた棚の向こう側にいる竜が、その棚を押してくる。すると、支えていた方の棚もぐらついて倒れ出した。




