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だが、真緒は後ろから誰かに強く引っ張られるのを感じた。目に浮かんだ涙が弧を描くように散る。
気がつくと、目の前に貴夜の後ろ姿があった。
貴夜が真緒の肩をつかみ、力強く引っ張って、地面へ倒したのだった。そして飛んでやってくる竜に、ひるむことなく回し蹴りをする。
あごを蹴られた竜は、近くの壁に頭をぶつけた。
その間に、貴夜は振り返って真緒を引っ張り上げる。大丈夫か声をかけることもなく、近くにある扉を目指し、真緒を連れて全速力で走った。その後を竜が追いかける。
ふたりが扉を開けて中に入ろうとすると、竜はそれを阻止するように前足で扉をつかみ、鋭い牙で貴夜の腕を噛もうとした。が、貴夜のローブの袖を食い破っただけで、噛むことはできなかった。
その隙に真緒が中に入り、貴夜も入って無理やり扉を閉める。その建てものは、女性向けの小さな小物売り店だった。陳列棚に香水瓶や小箱、髪飾りなどが置かれている。誰もいないのか静かで、明かりは消えていて薄暗い。
ドン、ドドンッ!
竜が外から体あたりして扉を叩く。
「早く! どこかに隠れろ!」
竜が入ってこれないように扉を押さえながら、貴夜が叫んだ。
真緒は周囲を見回したが、身を隠せるような場所はどこにも見あたらない。カウンターですら小さく、扉からは丸見えだった。
「貴夜くんはどうするの?」
緊張とおそれと焦りが入り混じった空気の中、真緒はおどおどしながら尋ねた。
「俺はここでなんとかこいつを食い止める」
「そんな、無茶だよ! 誰か……そうだ、誰か、助けを呼ん」
「どうやって! それに、そんな暇があるように思うか? 落ち着いて今の状況を見ろ! ここには俺とお前しかいないんだ。わかったら、とにかくできるだけ竜の見えないところに隠れろ! そして俺がこいつを引き付けている間にここから逃げろ!」
「でも」
「いいから! 早くしろ!」
普段聞かない貴夜の怒鳴り声。必死であることが真緒に伝わる。
真緒は泣きながらも、できるだけ竜にすぐ見つからないような棚の陰を探し、そこに身を潜めた。祈るようにぎゅっと両手を組んで目を閉じる。全身のふるえが止まらなかった。
「チッ」
貴夜は小さく舌打ちした。
木の扉には裂け目が入り、ミシミシと鈍い音がする。貴夜の腕はしびれ、限界が近づいてきた。
それを悟ったのか、貴夜は竜が体あたりした直後、背負っていたリュックを少し離れた場所に放り投げた。そしてまた竜が体あたりしてくる頃には、すかさず扉を押さえる。
「……っく」
貴夜の顔に苦悶が満ちる。扉の裂け目はひどくなり、隙間が生じた。その隙間から、竜のぎらりと光った鋭い目が覗く。
竜がもう1度体あたりするのに扉から離れるや否や、貴夜は放り投げたリュックのところまで急いで後退した。




