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ふたりを包む霧が、徐々に薄くなってきた。
少年は右手で右目を押さえ、左手でローブの下から黒い眼帯を取り出した。そしてその眼帯を右目にあてると、痛みがやわらいだのか、ゆっくりと立ち上がる。
「なんで僕だけ、こうなんだ……あいつは普通に生きやがって」
視線を下に、ブツブツと呟く。
近くの建てものの輪郭がはっきりと見え出した頃、少年は真緒の脇を通って、どこかへ行こうとした。
「ま、待って!」
真緒が振り返り、少年を呼び止める。聞きたいことはまだあるはずなのに、いざ少年が立ち止まると、真緒はなにを聞けばいいのかわからなくなってしまった。
「なに? 僕、もう疲れたんだけど……。話なら、また今度にして」
少年が真緒の言葉を待つことなく、すたすたとその場を去って行く。
真緒は結局なにも言えなかった。ただ、その少年の後ろ姿が見えなくなるまで、その場に立ちすくんでいた。
それから数分後。すっかり霧はなくなり、周囲に再び闇が戻る。麗華の言葉を思い出した真緒は、街灯が照らした道に影を走らせながら、魔法文具店に向かった。
店に着くと、大勢の見習いたちで賑わっていた。ちょうど近くに遊と麗華がいる。ふたりとも筆やインクを見ていた。
「あ、真緒。薬、買えた?」
麗華が真緒に気づく。
「うん。どこにあるのかわからなかったんだけど、お店の秘人が教えてくれたから、ちゃんと買えたよ」
「そう。それなら良かったわ。もうすぐ22時だし、少ししたら、ご飯食べに行きましょ」
麗華の言葉に真緒はうなずき、一緒に筆やインクを見ることにした。途中、少し離れたところにいる貴夜を見つけ、胸がざわつく。
――僕が誰なのか、あいつに聞けばいいよ。
貴夜と同じ顔の少年の言葉がよみがえる。聞きに行こうかためらったが、なんとなく今はやめておこうと、真緒は思った。
それから時間が経ち、真緒たちは店の外に出た。
「うわぁ、雨降ってる! 霧も少し出てるね」
遊が背負っているリュックを下ろした。
「レインコート出さなきゃ」
麗華も自分のかばんを開けてガサゴソと探す。
つられて、真緒もレインコートを出してローブの上から着た。ピンクの半透明で、フードが付いている。学園用のレインコートであるため、学園のロゴが右の上腕あたりにあった。
真緒は、このレインコートを着ると貧乏を表しているような気がして嫌だった。誰ひとり、学園用のものを着ている秘人がいない。




