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『17時から18時まで大特価で売り出し中』
市場の入口に小さな看板が立てられ、そう書かれていた。
中に入ると、群集する真っ黒な買いもの客と、天井あたりにいる色鮮やかな生きものたちが真っ先に目に飛び込んでくる。
大量の水が天井に広がり、逆さまになったプールのようになっていて、その中を変わった魚が泳いでいる。タイに似た赤い魚、ウナギのように体が細く長い魚、中には金魚のような小さい魚もいる。魚以外に、ウニのようにたくさんとげがあり、緑と紫と桃色のまだら模様の体をしているものがいて、それらは天井にへばりついていた。
真緒は仰ぎ見て、その中にいるグオウオという名前の魚を探しはじめた。
グオウオは、薄い青緑色に紫色のドーナッツ模様で、形はエイのように平たくて尾が長い、とても大きな魚だった。
刻々と時間が過ぎ、真緒は祈るような思いで必死に探すが、なかなか見つからない。そして、はぁ、とため息をつき、とうとう諦めた。ご飯抜きの文字が頭に浮かぶ。
「誰か、私が買ったこの魚要りませんか? 要らなくなったんでお譲りします」
しょんぼりしている真緒の斜め後ろで、男性が大きな魚を両手で頭上に掲げ、きょろきょろと周囲を見回している。その魚は、エイのような形で薄い青緑に紫のドーナッツ模様だった。
振り返った真緒は、それが自分の求めていた魚だとわかると、すぐに手を上げてブンブンと左右に振った。
「おじさん、こっち! その魚、私にください。お願いします!」
真緒の声に気がついたのか、男性が周囲をうかがう。ぶんぶんと振る小さな手が見え、駆け寄った。
「ああ、きみかな? ありがとう、助かるよ」
「はい、私です。こちらの方こそ助かりました。えっと、100歯でいいですか?」
真緒はポシェットから獣の牙を取りだそうとしたが、男性に止められた。
「それより、まずこの魚を置いていいかな? さっきからずっと重くってね。貸保管場まで案内してくれると助かるんだけど」
真緒が顔を上げて男性を見ると、青白い顔に苦しそうな笑みを浮かべていた。男性の黒い髪が余計にそれを強調させている。
「あっ、気がつかなくてすみません! それじゃ、案内します」
慌ててポシェットのチャックを閉じ、真緒は貸保管場にある自分の荷車の前まで行った。
荷車は鉄格子で囲まれ、筒型の錠が付いている。その下の真っ黒な地面には、『ま―4』と大きく書かれた、青く光る文字があった。
貸保管場では、それぞれの預かり場所に、文字1字と数字1けたを組み合わせたものがある。その番号が預かり番号になり、覚えておくと探すのに役立つのだった。
「ここです」
案内した真緒は、錠の筒の穴に向かってはっきりした声で「お星様」と言う。すると、錠がそれに反応してカチャリと音をたてて勝手に外れた。
「ありがとう」
男性はそう言って、持っている大きな魚を真緒の荷車に乗せた。
「それと、お金は50歯でいいよ。きみみたいな子に100歯ももらえないから。そうだ、残りはきみのお小遣いにしなさい」
「え? 受け取ってください。でないと、私が家に帰ったらおばさんに怒られます」
「おばさんに言わなければ大丈夫。そのあまったお金で買いものするとまずいなら、形の残らないものを買ってしまえばいい。例えばジュースやお菓子、食べたらなくなるものをね」
男性がウィンクすると、真緒はたちまち笑みを浮かべ、ありがとうございますと言ってお礼した。