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いきなりのできごとに、真緒は少し屈んでうつむき、防ぐように頭を両手で覆った。
「ふふっ。びっくりした? 僕もはじめて見た時はびっくりしたけど、これ、子供だましの絵本なんだよ」
遊が真緒の横で小さく笑う。そして、ほらっと言って前方を指差した。
真緒はおそるおそる顔を上げてまっすぐに立つと、目線より少し上の方に、大きな黒い竜の頭があった。
黒い竜の頭は、天井に吊られた巨大な見開きの本の中から、鋭い爪の付いた前足とともに飛び出している。まるで生きているみたいに、琥珀色の大きな目がぎょろりと動き、わにのような口を時々開いては紫の火を噴く。
「これ、子供だましにしては、迫力があって怖すぎるよ。この口から出る炎みたいなのは、秘人にあたらないようにできているの?」
「多分あたらないよ。あたったとしても、魔法だから大丈夫! あれ? そういえば貴夜は?」
遊がきょろきょろとあたりを見る。貴夜の姿がない。真緒も、近くにいないか目で探した。
「先に行ったのかも。ニーニと、この本屋の2階で待ち合わせしているんだ」
そう言って、遊が真緒を手招きして2階に上がる。真緒も上がり、遊についていった。ふたりが回転棚の前まで来ると、その近くのベンチで麗華が座って待っていた。そしてその前には貴夜もいた。立って、麗華に話しかけている。
「ニーニ! どうだった?」
遊も話しかけると、麗華は頭を小さく横に振った。
「今、俺も同じことを聞いた。見つからなかったらしい」
貴夜が答えた。
「そっか。家に連絡とかは?」
「ないわ。もう、どこか遠くへ行ったのかもね」
麗華の言葉を聞いて、遊と貴夜がしばらく沈黙する。話の内容がよくわからなかった真緒は、聞いてもいいのかわからず、ただ、暗い表情をした麗華を見つめていた。
「さっ! とにかく、どこか行きましょ! 今日は、いっぱい買いものしてやるんだから!」
麗華はすっくと立ち上がると、真緒がいることに気づいて、目を泳がせる。
「真緒、ごめんね。変なとこ見せちゃった。それと、今日は家の事情で学園前に行けなかったの」
「話はよくわからないけど、家の事情なら仕方ないし、私のことは気にしないで」
真緒が優しくほほ笑むと、麗華はありがとうと言って、真緒の腕をつかんだ。
「ねぇねぇ、真緒! この前言ってた、時計を見に行かない? すっごく種類が豊富で、かわいいものもいっぱいあるんだから! 見たら、欲しくなるかも! あ、確か貴夜も興味あったわよね?」
麗華が振り向いて貴夜を見ると、貴夜は無表情のままうなずいた。
「ああ。時計屋なら、行きたい」
「じゃあ、決定だね!」
遊も笑顔で賛成する。まずは、時計が売っている、きらめき堂という店に行くことになった。




