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「遊、なにやってるのよ? プレウッティスは暴れたらどうするんだった?」
「う、歌をうたう」
怜佳の厳しい口調に、遊がたじろぐ。真緒も悪いことをしてしまったような気持ちになり、心が重くなった。
「そう。そうすればプレウッティスは落ち着くの。それができなければ、飼うことはできないわ。もしあの子になにかあったらどうするの? ちゃんと謝った?」
そう言って、怜佳は真緒を一瞥し、遊をじっと見た。そして遊がうなずくと、後で説教よと告げた。
「真緒ちゃん、だった? 本当にごめんね。けがはしてない?」
怜佳の口調が優しくなる。
「どう? 両腕を見せて」
「だ、大丈夫です」
「いいから、見せて欲しいの」
真緒がしぶしぶ長い袖をめくると、怜佳はけがをしている箇所がないか、くまなく調べた。
「腕は大丈夫そうね。脚は?」
腕と同様、怜佳が真緒の脚も確かめると、左ひざの皮が剥がれて血が滲んでいた。それも大きく広がって、真っ赤な夕日のようになっている。
「あ、本当大丈夫です。ただのすり傷ですから」
「いいえ、切れてるわ」
真緒の言葉に間髪を容れず、怜佳が言い放った。そしてどこからともなく、小さな瓶をすばやく出し、コルクの栓を抜いて傷口に向かって逆さにした。小瓶の中に入っていた黄色い液体がひざに流れ落ちる。真緒は傷口にしみると思ったが、全くなにも感じなかった。それどころか、怜佳がその傷口あたりを布で拭うと、液や血の汚れだけでなく、傷口までもが綺麗になくなってびっくりした。
「これで脚は大丈夫。ちょうど薬を持っていて良かったわ。他に痛むところなど、ない?」
「は、はい。今のところ、大丈夫です」
一応、真緒が自分の体をあちこち触ってみせた。そして、それが本当に大丈夫そうだとわかると、怜佳はそこでやっと安堵の胸をなで下ろした。
「もし、また後で痛むところがあったら教えてくれる?」
真緒は怜佳に住所の書かれた紙を渡された。それをおばけのポシェットに入れ、こくりとうなずく。
「はい。傷、治してくださってありがとうございます」
深々とお辞儀をする真緒に、遊が申し訳なさそうに再度謝った。
「真緒ちゃん、本当にごめんね。けがしてたのに、その、気づかなくて」
「ううん、気にしないで。私も飛びだしたのが悪いし、ごめんね」
真緒が小さく笑うと、遊もにっこり笑った。
「じゃあ、私たちはこれで。またどこかで会えたら会いましょ」
「はい、またどこかで」
怜佳が別れの挨拶をすると、真緒も挨拶し、ふたりの背中を見送った。そしておばさんの頼まれごとを思いだし、駆け足で荷車を預けて貸保管場を後にした。