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到着した教室は、 三角の塔が連なったような建てものの中にあった。食堂や調理場がある『恵みの塔』と呼ばれる建てものと似ていて、淡い色調でいろんな模様が描かれた外壁とは対照的に、内壁はなにも描かれておらず真っ白だった。光が十分に入るよう、廊下には大きな窓がたくさんある。教室に扉が付いていないため、中はまる見えだった。導士が先に教室に入って教壇に登り、白い光の玉を1つ、宙に浮かせた。
「座席だが、最初は名前順でいこうと思う。今からひとりずつ名を呼ぶから、返事をして廊下側の前から順に座りたまえ」
梅クラスの皆は導士に従い、返事をして席に着く。 教室の窓は廊下の窓より小さく、黒板らしきものはどこにもなかった。横長の机が並び、そこにふたりずつ座るようになっている。机はふたりで1つを使うには十分な広さと大きさで、真緒は貴夜と隣同士になった。
「貴夜くん、よろしく」
「ああ」
貴夜と隣になったものの、ほとんど話をしないので、真緒はあまり喜べなかった。せっかく隣同士になったのだから、本当はもっと話をしたりして仲良くなりたいのに。そう思いつつ、きょろきょろと教室中を見回すと、遊と目が合った。
「あっ……。貴夜くん、遊くんがこっちに手を振ってるよ」
「え?」
真緒は遊に小さく手を振った。気づいた貴夜も、遊に向かって小さく手を上げる。
清掃当番を決め、次は皆の自己紹介だった。
「自己紹介はどんな形でも構わん。己の名前は必ず言うこと。他に、好きなものや嫌いなもの、特技などあれば話すと良い」
諸岸導士は隣の部屋から透明の大きな板を持ってきて、再び教壇に登った。板はちょうど黒板くらいの大きさだった。
「名前はこの光板に大きく書いてくれたまえ」
導士がローブの袖に手を突っ込み、スポイトのような形をした透明の筒状のものを取りだした。上にはポンプのような黒いゴムが付いている。
「これは光ガラスペンといって、この光板専用のペンだ。この透明な部分はガラスでできている。綺麗だろう? 字を書くときは、このポンプを使って光インクを吸ってから書くのだ。書くときに少しペン先の方に力をいれるとインクが出るぞ」
導士の持つガラスペンの中に入った白い液体が、キラキラと不思議な光を放っていた。そして導士が光板に『諸岸煎之丞』と書くと、文字も同じように白く発光する。教室が薄暗いこともあり、まるで字が宙に浮いているかのようで、とても幻想的だった。
「ま、こんな感じだ。字はしばらくすれば勝手に消えるが、時間がかかる。なので、手で消してくれたまえ」
導士の手が字に覆いかぶさる。ゴシゴシこすられ、光る字は綺麗に跡形もなく消えた。
「では、はじめよう」
名前の早い順からひとりずつ、教壇の上に立って自己紹介していく。
「僕は砂緋遊。最近、プレウッティスを飼いました! えっと、好きなものはチキンやまるいもの。甘いものも好きかな。みんなと仲良くなりたいんで、よろしくぅ」
遊は屈託のない笑顔で話した。遊らしいと真緒は思った。
「私の名前は新荷麗華。裁縫が得意で、おしゃれをするのが好き。自慢はこの髪と爪。皆さん、よろしくお願いします」
麗華の番が来ると、麗華は自分の艶々とした紫色の髪を手で振り払い、その手を爪が見えるように皆の方へ向けた。ニコッとほほ笑むと、字を消して速やかに席へ戻る。
真緒は思った。人面桃花とは、まさに麗華みたいな子を指すのだと。
麗華の次は、キャラメル色の長い髪の少年が教壇に登った。
「俺は……野土谷奈落。よろしく」
光板に字を書き殴り、名前しか名乗らず、あっさりとした自己紹介だった。肌は青く、ところどころに縫い目があり、尖った耳にはピアスをたくさん着けている。真緒はその少年の目を見るなり、思わずあっと叫んでしまった。その少年は、遊と出会った日に、菓子屋の出入り口で思いっきりぶつかった、感じの悪い少年だった。けれども、少年の方は真緒を覚えていないようで、疑うような目を真緒に向けている。
「どうした?」
「い、いえ、なんでもありません。すみません……」
導士に尋ねられて顔が真っ赤になった真緒は、縮こまって小さな声で答えた。皆、くすくすと笑う。隣にいる貴夜も、首を傾げて真緒を見た。




