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ふたりがレンガ造りの大きな建てものの前までやってくると、そこにひとりの男性が看板を持って立っていた。看板には7という数字が大きく書かれ、赤く光っている。
「わぁ、ここの市場って人気なんだね」
驚く遊に、真緒は小さく首を傾げて尋ねた。
「遊くんはこのあたりの住人じゃないの?」
「うん。僕、ここよりずっと遠いところに住んでるから、ここへは、はじめて来たんだ。僕の家から1番近い市場はいつ行っても2だよ」
「へぇ。それじゃあ買いものしやすくていいね」
「そうでもないよ。品ぞろえが悪くって困ることもあるから」
市場は必ず客の混み状況を看板の数字で示していた。1が少なく、数字が上がるにつれて多くなる。9が最後の数字で満員を意味した。
ふたりは中に入り、市場へ行く前に、荷物や乗りものなどを預けられる貸保管場というところに寄った。
「あ、怜佳姉さん!」
急に遊が走りだし、赤いロングヘアの女性に抱きついた。
「遊、今来たのね? ちょうど良かったわ。さあ、行きましょう」
「うん! あ、待って!」
遊が真緒の方を振り返ると、真緒とその女性は互いに目が合った。
「真緒ちゃん、怜佳姉さんは僕より10歳上の姉なんだ」
遊が笑顔でそう言うと、遊のそばにいる女性は真緒にどうもと言ってほほ笑んだ。遊と同じく日焼けしたような褐色の肌に、ふんわりしたくせ毛風の真っ赤な髪だった。けれども瞳の色が緑で、遊の青とは違った。
「怜佳姉さん、真緒ちゃんは今日知り合った女の子で、その、ちょっと」
遊の言葉尻が弱くなると、怜佳の眉間にしわが寄り、ピリピリした空気が真緒に伝わった。
「なにか、やらかしたのね?」
怜佳の言葉に、遊の肩がビクッと上下する。
真緒はそのとき、はじめて遊に尻尾があることを知った。出会ったときにも遊のローブがお尻部分だけ膨らんでいたので、気にはなっていたが、まさか尻尾があるとは思わなかった。
ふさふさした茶色い尻尾を自分の前に持ってきた遊は、その尻尾を両手でつかみ、先を口にくわえている。
「あ、あの、大したことじゃありません。ぶつかったんですけど、私も急に飛びだして悪かったんです」
焦って真緒が怜佳に話すと、怜佳はふふっとほほ笑んだ。
「遊をかばおうとしてくれてるの? 優しいのね」
怜佳に言われ、真緒はうつむいて小さく首を横に振った。
「でもね、遊はいつも自分が悪いことをしたら、つい自分の尻尾を噛むくせがあるの」
「ごめんなさい。僕、プレウッティスを暴れさせちゃって、止めることができなかったんだ。それで、その、あの」
遊が必死に説明しようとすると、怜佳は遊の額を強く押した。