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「クリュイルスは食べたことがないから、よくわからないけど、全身真っ白で毛がなくって、目が大きいの。ゴストニルフは鳥ときつねによく似た獣で、とってもおいしいわよ。特に手と胸肉が最高なの! ああ、どうせなら、目玉なんかじゃなく、お肉だったら良かったのに!」
麗華が口惜しそうに、握りこぶしをブンブンと小さく振る。いつしかトイレは見習いの少女たちでいっぱいだった。皆、一様に顔色が悪い。
「みんなも私たちと同じみたいだわね。真緒、出ましょ」
真緒はうなずいた。大食堂のテーブル席に戻ると、まだあの料理が皿に乗っかったままだった。
「あの、すみません。これ、下げてもらっていいですか?」
できるだけ皿の上を見ないようにして、真緒はメイドに声をかけ、料理を下げてもらった。それと替わりに今度は赤いスープがやってくる。いろんな野菜が入っていて、良いにおいがし、これなら食べられそうだと真緒は思った。その後、魚とじゃがいもの蒸した料理、ふわふわのやわらかいパンがテーブルに届いた。真緒は難なくそれらを口に運んだ。どれもおいしく、おばさんの家では食べられないようなものばかり。最後に赤いムースケーキが出てきたところで、肩をトントンと叩かれる。振り返ると麗華がそばに立っていた。
「先に出とくけど、一緒に帰る?」
「あ、えと、うん。いいの?」
「うん、いいわよ。それだったら早くね。待ってるから」
そう言い残し、麗華は先に外へと行く。真緒がちらりと周囲を見渡すと、何人かはもう食べ終わったのか、席を立っていた。同じテーブルの貴夜の席も、すでに空席だった。真緒はデザートを食べてから出ようとしたが、そのケーキの赤さが血のように赤黒く、嗅いでみると甘いにおいではなくどこか生臭かったので、食べずに外へ出ることにした。
「あ、来た来た! 早かったね」
食堂から出た真緒に、遊は笑顔で駆け寄った。その後ろの方で、麗華と貴夜が立っている。
「もしかして、遊くんも貴夜くんも待っててくれたの? みんな、ありがとう」
真緒は嬉しくなって笑顔を返した。
「ねぇ、真緒ちゃんは次の日曜日空いてる?」
「え? 次の日曜?」
遊のいきなりの質問に、真緒が小首を傾げる。
「そ! 次の日曜! 17日! みんなでね、霧雨通りに行こ?」
「17日……うん、多分行けると思うけど……みんなって誰?」
「僕と貴夜とニーニと真緒ちゃんだよ」
「ニーニ?」
「私よ! まったくー、どうして遊はいつもニーニ、ニーニって呼ぶのよ? 普通に下の名前で呼べばいいのに。しかも、真緒の時は真緒ちゃんって下の名前で呼ぶくせに!」
ニーニの正体は麗華だった。腰に手をあて、遊をにらんでいる。
「ご、ごめん。でも、ニーニって呼ぶ方が呼びやすいんだよ。それに、姉さんと同じだし」
弁解する遊の言葉尻は、真緒がどうにか聞こえるほどの小さな声だった。そのとき、真緒はあることに気がついた。漢字は違うものの、遊の姉と麗華は同じ名前だったのだ。
「ふぅん」
どこか納得がいかないような口調で、麗華がうなずく。




