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「そりゃあ、ね。儀式の日の宴って言ったら、こんなもんだわよ。騒ぐようなパーティーをするってわけじゃないんだから」
そう言う麗華も、どこか期待外れな顔をしていた。
真緒たちが数歩進むと、足元でふわりとなにかが舞った。見ると、床に真っ赤なバラの花びらがたくさん散っていた。まるでじゅうたんのように隙間なく敷きつめられている。パイプオルガンの音色がやむと、宙に浮いていたテーブルは、ゆっくりとそのじゅうたんの上に降り立った。
「どこに座ったらいいんだろう?」
遊があちこちに点在するテーブルを見回した。
真緒もどこに座ればいいのか戸惑っていると、頭にぽとりと2つ折りの白い紙が落ちてきた。
「ひゃっ! なに?」
真緒が驚いてバラの上に落ちた白い紙を見る。紙には宮本真緒と書かれていた。それが勝手に蝶のようにひらひらと飛び、真緒の前を行く。導かれるようにその紙についていくと、中央にあるテーブルの席の前で止まり、その紙はたちまち真っ白ないすに変わった。
あっと目を見開く真緒に、いすが早く座れと言わんばかりにガタガタと鳴る。座っていいのか不安に思った真緒だが、そのテーブルを囲うようにして他の見習いたちも座っているので、勇気を出してそのいすに座った。とたん、いすは前進してテーブルに近づき、動かなくなる。真緒が安心してあたりを見回すと、同じテーブルの席に貴夜がいて、少し離れたテーブルの席に遊と麗華がいた。
この大食堂に入ったときは、テーブルが宙に浮いていたせいで気づかなかったが、奥の方に真っ黒な薄いカーテンで仕切られた場所があり、そこにパイプオルガンがあった。その近くには、ジュースのボトルや料理を乗せたワゴンが数台あって、黒のメイド服を着た複数の女性が立っていた。
パイプオルガンが再び鳴ると、その女性たちはワゴンを引いたり、たくさんの銀食器を乗せたトレイを片手に、見習いたちのいるテーブルの間を行ったり来たりしはじめる。
真緒の目の前のテーブルに、大きな銀色のまるい皿がふわりと飛んできたり、宝石のついたグラスがくるくる回りながらやってきたり、ナイフやフォークが脇の隙間からスッと滑り込むようにして現れる。食器は、メイド服の女性によって操られていた。女性たちそれぞれが小さな杖を出し、口々に呪文を唱えている。
真緒はなんだか愉快な気分になってきた。グラスの横に並んだボトルは、誰の手も借りずに勝手にグラスへと真っ赤なジュースを注ぐ。料理の皿は、ふたをした状態で、見習いたちが囲むテーブルの中央に寄り集まる。真緒が目の前の皿の両端にあるナイフやフォークに触れると、それらはひょこっと立ち上がり、皿の上にまだ料理がないのがわかると、すぐにまた寝てしまう。その反応が面白くて、真緒はついつい2度3度とやって、くすくすと笑った。
しかし、テーブルの中央にあった料理のふたが開き、その料理が見習いたちの皿に盛られると、真緒はナイフとフォークに触れるのをやめてしまった。
「え……な、なに……これ?」
真緒は自分の皿に盛られた料理を訝る目で見つめた。
皿に盛られたのは、野菜たっぷりのサラダでもなければ、こんがり焼けたステーキでもなく、甘いケーキでもなかった。そこにあるのは、灰色のソースがかかったまるいものだった。そのまるいものは2つあり、微かに動いているようで、真緒はその正体がわかると、急に鳥肌が立っていすを後退させた。
「うっ……」
眉を寄せ、思わず両手で口を押さえる。
真緒の皿の上では、生きた大きな目の玉がくるくると動いていた。
「どうかなさいましたか?」
いきなり後ろからメイド服を着た女性に声をかけられ、真緒はビクッとふるえ上がり、小さな叫び声をあげてしまった。
「い、いえ、なんでもっ! なんでもないです! お手洗いに行きたいんです」
「ああ、お手洗いでしたか。それでしたら、ここを出て左の通路の奥にございます」
「あ、ありがとう、ございます……」
ゆっくりと席を立ち、真緒はふらふらと歩いた。ちらりと他のテーブルを見ると、真緒と同じ料理が運ばれていて、見習いたちがナイフとフォークに触れると、それらは容赦なく皿の上のものをグチャグチャにした。
それを見てしまった真緒は、再び吐き気を催し、トイレへと急いだ。




