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闇のペンタクル  作者: 侑佐
入儀式
40/105

「松クラスから順にここへ上がり、紙に書かれている誓いの言葉を大きな声で言いなさい。それが終われば、自分の髪の毛を1本抜き、このカードの上に置きなさい」


 副学園長が、赤褐色の光沢を放つ銅板のような小さなカードを手にし、皆に見せた。


「髪の毛がカードに溶ければ、今度は針で自分の指を突き、出てきた血をカードにくっつけるように、指を押しあてなさい」


 それが終われば今いるもとの位置に戻るようにと付け加えて、副学園長の説明が終わった。


 真緒は血のことで動揺して、説明がうろ覚えだった。けれども、血の説明の部分だけしっかりと記憶していた。針で刺した指をカードにくっつける。それを心の中で復唱し、どうしようかと悩む。刺すのは痛いし、血が出てしまえば誰か自分の正体に気づくかもしれない。どうにか血を流さないで済む方法はないか……試しにトイレに行って式が終わるまで待ってみよう、そう思い、行動に移した。


「あ、あの……お手洗いに行ってもいいですか?」


 列から離れ、近くにいる導士に声をかけた。


「我慢できないのか?」


 導士ににらまれ、真緒は弱々しくはいとうなずく。


「仕方ない。これを飲みなさい。お腹の調子を整え、トイレに行きたくなる生理機能の働きを抑える薬だ。2、3時間は持つだろう。儀式中はここから出すわけにはいかない」


 導士が小さな巾着袋からまるい錠剤を1つ取り、そう言って真緒の退出を認めなかった。


 真緒はそれを受け取り、仕方なくすごすごと列に戻る。それからというもの、他に良い考えが浮かばず、いつの間にか竹クラスの見習いたちが壇上に登っていた。


「ねぇ、早く行ってくれない?」


 焦って考えている真緒の後ろから、少女が声をかけた。


 真緒ははっとして前を見る。前にはもう誰もいない。皆、壇上に登る階段の方へ行ってしまっていた。


 そのことに慌てた真緒は、小走りして前に進んだ。


 舞台には小さな石の台が置かれている。真緒まで順番が来ると、真緒は石の台の向こう側に立つ影山副学園長と目が合った。


「次の者、はじめたまえ」


 副学園長に言われ、おそるおそる台の前まで行く。台の上には、右から順に、小さな白い紙、未使用の針が入った筒、使用済みの針が入った筒、さっき副学園長が皆に見せたカードと並べられていた。


「どうした? 早くその紙に書かれている字を読め。大きな声でな」


 真緒がどうすれば良いのかわからずにいると、副学園長が怪訝な顔をして言った。


 手順を忘れていた真緒は、思いだしてすぐに紙を手に取り、書かれていることを出せる限りの大きな声で述べる。


「私は、ここに誓う。いついかなるときも、魔示士の見習いとして秘人を助けることを。そして、ハイド魔法学園の見習いとしての誇りを持ち、導士の教えを忠実に守り、常に向上、成長することを」


 ふぅ、と短い息を吐く。紙を置く真緒の手が、かすかにふるえた。


「次は毛髪だ」


 針を取ろうとする真緒に、副学園長が注意した。


 あっと気がついた真緒は、手を止めて自分の髪の毛を1本引き抜いた。松明の明かりがカードに反射して、まぶしい光が真緒の目に入る。目を細めながら、真緒がカードの上に髪の毛を乗せると、髪の毛は蒸発したように消えた。


 真緒はいよいよだと思い、針に手を伸ばす。ふるえているのが自分でもわかり、深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。

 

 どうしよう。自ら大勢の前で血を出すのがどれほど危険かわからない。きっと自殺行為に違いない。そう思うと、真緒はためらった。


「なにをしている、次で終わりのはずだ。早くしろ」


 副学園長が急かす。他の導士や新見習いたちも真緒の様子を見守っていた。


 心臓がドッドッドッと早く脈打ち、手が汗ばむが、真緒はじっとしているわけにはいかなかった。諦めとわずかな希望と、襲ってくるだろう痛みを覚悟して、指の先に針をあてた。


挿絵(By みてみん)

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