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「今から儀式をはじめる。さぁ、前へ」
真っ暗でなにも見えない状況の中、真緒は声の言う通りにした。怖々と片足を数歩先へ伸ばすと、前方の舞台の上で、たくさんの松明が燃えだす。すぐに真緒は足を引っ込めた。
舞台では、多くの秘人が横に並んでいた。その足もとと背面にある松明の明かりでその者たちの姿が浮かび上がる。その中に、見覚えのある人物もいた。さっき真緒たちを案内していた坊主頭の男性だ。
「わたくしは、このハイド魔法学園の学園長を務める黒坂耀治と言います。皆さんに会うのを心待ちにしておりました。さあ、皆さん、怖がらずに前へ」
舞台の中心に立つ男性が前に進みでて、落ち着いた低い声で話した。両手を小さく広げ、少し表情をゆるめる。先ほどの低い声も、この学園長のものだった。色黒の肌に、黒と銀が交互に入り混じった髪をオールバックにしていて、眉間と口元には、くっきりとしたしわがあった。瞳は、松明の炎のような情熱を秘めた赤い色をしている。
「これからこの学園であなたたちに魔法などを教えてくださる導士を紹介します。たくさんいらっしゃいますから、覚えるのが大変かと思いますが、できるだけ早く覚えるようにしてください」
そう言って、学園長が舞台の上の導士にひとりずつ前に出るよう指示した。
はじめに、副学園長が出てきて挨拶した。灰色の髪が床に着きそうなほど長く、学園長よりも年上の男性で杖をついている。金の鋭い眼光で新見習いたちを見渡した後、への字に曲がった口を開けた。
「わしは影山弘武だ」
フンッと鼻を鳴らし、もとの位置に戻る。怖そうで感じの悪そうな秘人だと真緒は思った。
それから魔法の基礎となる呪術学、占い専門の占術学、史学、文学、生物学といろんな学科目の導士が自己紹介し、最後に呼霊術学の導士である女性が名乗った。呼霊術学は霊を呼ぶ術で、導士も美しく、かなりの人気があった。
「私は渡良部柑茄と言います。皆さんの中には、早く呼霊術を学びたいと思っている秘人もいることでしょう。ですが、精霊を呼ぶのは想像以上に難しく、危険を伴います。また、死霊の使役は数十年前に禁止されました。よって、呼霊術は高等魔法であるとされ、Dクラスからの授業となります。非常に残念ですが」
そこまで話すと、新見習いの何人かが口をそろえて不平不満を言った。それを副学園長が静かにしろと制す。
呼霊術学の渡良部導士は苦笑し、黒くて長い自分の髪を両手で掻き上げた。
「非常に残念ですが、皆さんがDクラスになったとき、またお会いするのを楽しみにしてます」
軽くお辞儀し、もとの位置に着いた。それと交代に、副学園長が前に出る。
「ひと通り紹介が済んだところで、小クラスの担当の導士を発表する。その前に、確認のため、きみらがどの小クラスか、名をあげておく。呼ばれた者は大きな声で返事をし、各小クラスのところへ1列に並びなさい」
松、竹、梅と書かれた光の玉が間隔をあけて宙に浮かび、光った。
小さな紙を広げた副学園長は、新見習いたちの名前を松竹梅の順に読み上げていく。その後、各小クラスの担当の名を呼んだ。
真緒たちAの梅クラスは、史学の導士であり、新見習いを儀式場まで案内した、諸岸煎之丞だった。諸岸導士はつるつるの頭をさすりながら、照れくさそうに舞台の前に再び現れた。
「実は、担当のクラスを持つのははじめてだ。我が愛しき諸君、仲良くしようぞ」
さっきまでの厳めしい雰囲気と違い、緊張しているのが皆に伝わる。真緒は梅クラスの秘人たちとともに拍手を送った。
「それでは、次にここでひとりずつ誓いの言葉を述べ、血と毛髪の献上をしてもらう」
副学園長の言葉に、真緒は耳を疑った。
え? 血の献上? それって血を捧げるってこと? 真緒の胸が不安でいっぱいになっていく。なぜなら、おばさんとの約束で、血を流してはいけないからだった。




