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ゴーン、ゴーン、ゴーン。鐘が鳴る。遠くに見える時計塔の針がちょうど5時を指していた。
少女はローブのフードをかぶって小さな荷車を引きながら全速力で走った。フードが大きいせいで視界が半分になるが気にしていられない。石畳の大きな曲線を描いた道を行き、誰もいない路地に入る。幅は荷車がやっと通れるほどで、走るのは困難だった。しかし少女はその道が近道だとわかっていたので、ガタガタと荷車を壁にぶつけながらも歩き、大通りに出た。
大通りは黒いローブをまとった者でいっぱいだった。皆一様にフードをかぶり、足早に歩いている。通りの両端には、灰色の大きな粘土で作ったような、いびつな形をした建てものが並び、開け放たれた窓からはいろんなにおいを漂わせていた。
『グレイ市場 骸骨店を右折してすぐ』
そう書かれた看板が、十字路に差しかかったところのアルミのゴミバケツの横に立ててあった。
もう少し。そう思って少女が角を曲がろうとすると、いきなり誰かの叫び声がした。
「わーっ! どいてどいてー! ぶつかるよー!」
「え?」
少女が立ち止まってその方を見ると、大きなサイのような生きものが少女めがけてやってくる。
「あ……」
少女は引き返すことも避けることもできずに硬直していた。そして次の瞬間、サイのようなものが少女の荷車にぶつかった。
「本っ当にごめん! 大丈夫? けがはない?」
誰かにそう呼びかけられて気がついた少女は、横転した荷車の近くで自分が横たわっていることに驚かされた。
「あれ? 私……」
「ごめんね、僕が悪いんだ。覚えてない? きみがそこの角を曲がろうとして、プレウッティスがそこに突進していって……その、本当にごめん!」
少女の目の前で、深く頭を垂らした者がいた。赤くてやわらかそうな、ふわふわした髪に、茶色い三角の獣耳がついている。
「あの、えっと……」
少女はまだ状況をよくわからないでいた。すると、茶色い三角耳のついた赤い頭の者が顔を上げた。色黒の肌に大きな青い瞳。少女と同じ年くらいの少年だった。
「ごめんなさい。もしかして、頭打ったりした?」
不安そうに顔を覗き込む少年。けれども、少女には女の子に見えた。声がとても高く、顔がかわいらしいと思ったからだった。