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家を出て、真緒が時間を気にしながら歩いていると、ひとりの少女もしくは少年が、真緒の前を歩いていた。同じ方向に進んでいるのと、背丈があまり高くないことから、真緒はその者が自分と同じ学園の新見習いではないかと予想した。
真緒が声をかけようかどうしようか迷っていると、その者が立ち止まった。もしかして後ろにいることに気づかれたかな? そう思っていた真緒だが、そうではなく、そこがバス停だから足を止めたのだった。その印に、細くて長い枯れ木が地面から天に向かって生えていて、そのてっぺんには赤い大きな光の玉がある。まるで両手で包み込んでいるかのように、数本の木の枝が玉を支えている。玉には月と竜としずくが描かれていた。
真緒は、バスを待つその者の右横に並び、ちらりと横顔を盗み見た。
フードから覗く水色の髪と白い肌が、赤い光の玉に照らされて神秘的に映る。細い目の中心にある瞳は、赤い光に負けない綺麗な紫色だった。
「あ、あの」
真緒は勇気を出して声をかけた。
「あの、新見習いの秘人ですよね?」
その者が自分に話しかけられていることに気づき、真緒の方に顔を向ける。その者は少女だった。人形のように無表情で、まつ毛が長く、薄い桃色のくちびるをしている。左目の瞳が右目の紫と違って緑だったことと、額や首に包帯がぐるぐると巻かれていることに、真緒は少し驚いた。
「そうよ。……なぁに?」
少女の口が動いた。発する声にはどこか冷たい響きが含まれている。まるでなにも興味がないとでも言うように。
「あ、いや、あの……私も同じ新見習いなの」
真緒は、少女が声をかけられて嬉しくないように見えた。が、無理してほほ笑みかけた。
少女はそう、とだけ言って、視線を向かいの家に戻し、黙って眺める。早くもそこで会話が終わってしまった。
真緒は落ち込んでうつむいた。友達をつくりたくて声をかけてみたものの失敗した。
しばらくして、真緒の右の方から、闇に溶け込むような真っ黒い大きなバスがやってきた。音もせず、滑るように走ってくるので、真緒は不思議に思った。よく見るとタイヤが回っていない。
バスはスーッと流れるようにバス停前まで来ると、静かに止まり、そこでプシューッと音を出しながら煙を吐いた。煙は車体の下の方からもくもくと出て、たちまち真緒の視界の半分を覆っていく。
「ごきげんよう! 新見習いたち!」
真緒が咳き込んでいると、バスの扉が開き、中から元気な明るい声がした。
「私はハイド魔法学園のバスガイド、荒井瀬圭黄! ケーキと同じ響きだけど、気に入ってるわ。よろしくね!」
姿を現したのは、若い女性だった。つばのある赤い帽子に赤いスカート、白いシャツの上から黒のジャケットを重ね、薄い黄色のスカーフを首に巻いている。
「さ、今から名前を呼ぶから、呼ばれた秘人は返事してね! えっと、宮本真緒さん!」
「あ、はいっ!」
いきなりバスガイドに名前を呼ばれ、真緒は慌てて返事した。
バスガイドは真緒を見てにこっと笑うと、左手にあるクリップボードの紙にチェックを入れる。
「雪星羅さん!」
「はい」
次にバスガイドが名前を呼ぶと、真緒の隣の包帯を巻いた少女が返事した。真緒のときと同様、紙にチェックが入る。




