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真緒はぎゅっと目を閉じ、顔を伏せた。しばらくおばさんの手が上がったままだったが、次第に下がっていく。ゆっくりと目を開けた真緒は、叩かれなかったことに安心し、少しだけ緊張がとけた。
「理由を……どうして教えてくれないんですか?」
「あんたもしつこいねぇ。何度言っても聞きゃしないんだから」
はぁ、と短く息を吐き、おばさんは地下室に行こうとした。
「おばさん」
真緒が呼びかけると、おばさんはピタリと足を止め、しばらく沈黙する。
「ある秘人にもらったんだよ」
真緒に背を向けたまま、そう言った。
「ある秘人って、誰なんですか?」
問い詰める真緒に、おばさんはまた今度話すと言い残し、地下に行ってしまった。
ある秘人って誰なんだろう? 真緒がそう思いながら柱時計に目をやると、針は17時を回っていた。
「わっ、大変! 遅刻しちゃう!」
真緒は学園行きの時刻表を再度確認した。おばさんと買いものした帰りに、バス停の場所の確認と、時刻表をもらっていたのだった。
「17時55分。大丈夫、まだ時間ある!」
バス停は家から歩いて10分のところにある。真緒はすぐに2階へ上がってネグリジェから礼服に着替えた。
礼服は普段着る制服と違って格調高く、まるでドレスのようだった。フリルが控えめに付いた長袖の白いシャツに、裾がひらひらしたグレーのワンピースを着て、黒の丈の短い半袖のジャケットを羽織る。それから白いジャボタイを付け、学園のシンボルである月と竜としずくが描かれたブローチを飾った。
寝ぐせがついた黒い髪をブラシでまっすぐにとき、赤いバラのコサージュを付け、真緒が鏡を見て確認すると、タイツを履いていないことに気がついた。
黒のタイツをうっかり用意するのを忘れ、慌ててチェストの引きだしから引っ張りだす。それを履いて飛ぶように玄関へ向かった。
「忘れもの大丈夫かなぁ」
真緒はきょろきょろと周囲を確認した。入儀式はこれといった持ちものがなく、真緒はハンカチと筆記用具を入れた黒いショルダーポーチを肩にかけ、ワンピースと同じ色の靴を履いた。
「あ、違う」
靴を履いた後、真緒はいつものローブを取ろうとして、手を止める。その横にある、おばさんが買ってくれたローブの方を取った。
半袖のジャケットの上から着るのに抵抗があった真緒だが、ローブは真緒の思っていた以上にゆったりしていて、着やすかった。
「真緒」
ふと、おばさんの声がした。真緒が扉を開けようとしたときだった。
真緒が振り返ると、おばさんが目の前に立っていた。腕を組み、小さく笑っている。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
「はい。行ってきます!」
真緒はとびっきりの笑顔で、今までにない元気な声を出した。




