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「秘人と違う、魔獣だから。魔獣は狩りの対象だから。他の奴らは魔獣変化を持つ者を見下したり怖がったりするんだよ。普段はなんら私たちと変わらないが……でも真緒、できるだけ魔獣変化の子には近づかない方がいい」
「そんなっ! でも……でも、それじゃ、差別することと変わらないんじゃ……そんなの、私、できません」
真緒は昨日会った少年の謝る顔、白い歯を見せてにっこり笑った顔、少しの間しか話さなかったけれど、かわいくて無邪気そうなあの少年が、そんな避けるに値する存在には到底思えなかった。
「別に差別しろと言っているわけじゃない。あんたが望むなら、その子と仲良くすることに反対はしないよ。ただ!」
おばさんが立ち止まり、真緒を見た。おばさんのたかのように鋭い目がつり上がる。
「あんたの今置かれている状況で、魔獣変化の子と一緒にいるのは自分の身を滅ぼしかねない。危険だって言ってるんだよ」
真緒は泣きそうになった。もしあの少年とまたどこかでばったり会えば、避けることができるだろうか? たとえおばさんに危険だと言われても、その子に笑顔で声をかけられたら……そう考えると、胸が苦しくてたまらなかった。
「ここで泣くのはおよし! まだその子と友だちになったわけじゃないんだから」
そう言われて真緒は涙をぐっとこらえたが、気分は全然晴れなかった。
しばらくして、真緒とおばさんはある店の前まで来た。その店も市場の近くの大通り沿いの店と同じ、灰色の粘土でできたような、いびつな形をした建てもので、まるい窓と鉄の扉が付いていた。
『呪術・占術道具店』
扉の上にはそう書かれた板が、なにかの拍子に落ちてきそうなほど傾いた状態でかかっている。
「道具から買おうか?」
おばさんが提案した。
明かりがついていないのか、窓から真緒が覗いても店の中はなにも見えない。入ろうか迷ったが、いずれ入らなければならないことを考えれば入るしかない。そう思い、真緒はこくりとうなずいた。
ためらうことなく、おばさんが先に扉を開けて入っていく。真緒もおそるおそるその後を追って入った。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
おばさんがランタンを持ってあたりを照らす。
大きな鍋や壺など、ランタンに照らされた品々がぼんやりと浮かび上がった。
「ここにいますよ」
店の奥から、ぼそぼそと話す声がした。
おばさんがその声の方に近づいて照らすと、背をまるめたひとりの老婆が真緒たちの方を見て立っていた。縮れた真っ白な髪を垂らし、長い杖を持っている。顔はしわだらけで口から覗く歯が黄色く、ぼろぼろに欠けていた。
ぎょっとした真緒は、慌てておばさんの後ろに隠れてうかがう。それをうっとうしそうに、おばさんが真緒をひじで小突いた。
「道具を買いに来ました。この子が今年学校に通うもんで、必要なんですが……」
おばさんにしつこく小突かれたので、真緒は嫌々ながらも前に出た。
「ほう。その子ですか。なにがほしい?」
老婆と目があった真緒は、助けを求めるようにおばさんのローブを引っ張り、、目で訴えた。
「この紙に書いてあるものを全部」
おばさんが老婆に灰黄緑色の紙を渡した。
それにざっと目を通した老婆は、はいはいとうなずきながら、そのへんに置いてある鍋や壺などをひょいひょいと取り上げた。




