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「真緒、私は遠回しな表現が嫌いだから、今はっきり言っておくよ。私はね、あんたがここを出ていきさえすれば、それでいいんだよ」
「おばさん、ごめんなさい」
うつむく真緒の手を、おばさんがそっと握る。
「ちょっと……話す場所を変えよう。ついてきな」
真緒はこくんとうなずいた。
それからふたりは地下室へと移動し、湿ったベッドの上に並んで座った。
「今日あいつらが来たことで、私はやっと確信が持てたよ」
おばさんは、目の前の壁に掛けられた絵をぼんやり見つめながら、話しはじめた。
「真緒、あんたはここの秘人じゃない。秘人っていうのはどういうものか、図書館に行けばわかる。あいにく、ここにはそんな本がないし、見ての通り、本を買う金すらない。それに、酷なことを言うようで悪いけど、私はあんたを守るほど力がないし、守るつもりもない。だから、自分の身は自分で守って欲しいんだよ」
「はい」
真緒も灰色の石壁を見つめながら、小さく答えた。自分はここで暮らす秘人たちとは違う。それはわかっていたことだった。おばさんにも迷惑はかけられなかった。
「あんたがここに来てから、いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたんだ。でも、まさかこんなに早く来るとは」
はぁ、とおばさんがため息をつく。
「いいかい? 今から言うことをしっかり頭に入れておいておくれ。そして忘れず覚えていて欲しい」
真緒は黙って何度もうなずいた。
「まず1つ、けがは絶対にしないこと。秘人の中には、視覚・嗅覚・聴覚など鋭い奴がいる。血でも流したら、あんたが何者かわかってしまうかもしれない。いいね? これは1番重要なことだから、絶対に忘れず、気をつけるんだよ」
おばさんが真緒の方を向き、真緒の目を見て言うので、真緒もおばさんの方に上体をひねり、真剣に見つめるおばさんの目を見つめ返した。
「はい、忘れずに気をつけます」
「それと、血を流さないことと同じくらい、大事なことがもう1つ……泣かないこと。これもさっきと同じ理由だからわかるね? 涙は血ほど危険性は低いと思うんだがねぇ……でも、わからない。だから気をつけておくれ」
「はい」
「もし、あんたの正体がわかって、私があんたをかくまっていることが知れたら……」
「迷惑がかからないように、します。と言っても、今、迷惑かけてますけど……必ず、帰る方法を見つけて、早くここを出ます」
その言葉に責任がもてるかどうかはわからなかったが、真緒は頭を深く下げ、誠意ある態度を示した。
「ああ、頼んだよ。さあ、顔を上げて」
おばさんが真緒の両肩を握った。
真緒が顔を上げると、おばさんの顔に、今まで真緒に見せたことのない優しい温かな笑みが浮かんでいた。真緒は思わず泣きそうになったが、ぐっと我慢した。
「ここでは泣いていいんだよ」
そう言われ、真緒の中でこらえていたなにかがあふれ出し、それが涙となって、次から次へと真緒の目から流れ落ちた。
おばさんが真緒の体を優しく抱きしめ、ぽんぽんと真緒の背中を軽く叩く。
「真緒、これからあんたは学校に行かなくちゃいけない。費用のことは、町が支援してくれるし、資格さえ取って仕事で貢献すれば、タダのようなもんさ。だから気にすることはないよ」
「はい」
「ただ、学校に通うとなると、生活のリズムを変えなきゃならないし、危険も大きくなる。だが、良いこともある。学校は学園都市にあるから、あそこなら、あんたが抱える問題の解決の糸口が見つかるかもしれない」
「学園都市……ですか?」
真緒は学園都市というものがいまいちよくわからなかった。




