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「文明の発展に反比例して、町全体の魔法エネルギーが急激に減り、生まれてきた子供の多くが魔法エネルギーを蓄えることができず、学校が余儀なく休校された。今では考えられないが、昔そんな時期があったんだ。それは、あんたも授業がはじまったら、史学の時間で詳しく教えてもらえるだろうがね……なぜそんなことが起こったか、までは教えてもらえないだろうね」
「そうなんですか? どうして?」
「教本にも、それは伏せてあるのさ。精霊の子が関わる事実だから」
「そんな……」
「それだけじゃあ、ない。発展した魔法文明のせいで町の自然が壊されたんだ。それもこれも、本当は秘人が悪いんだがねぇ」
おばさんがため息をこぼした。砂がすっかり下に落ちてしまった時計を端に寄せ、コップ両手に真緒のところまで歩く。1つのコップを真緒に渡し、いすに腰かけた。
「今日はもう遅いから、これを飲んだら早く寝な。それに、明日から学校だろう?」
「えっ? おばさん、もっと話を聞かせてください。私、まだ寝なくても大丈夫です」
真緒はせがんだ。
けれども、おばさんが首を横に振る。
「いや、今日のあんたは疲れているはずだよ。それに、私も早く寝たいんだ」
真緒はしぶしぶ諦め、温かい牛乳に口をつけた。ほのかな甘い香りが鼻から入り、心を落ち着かせる。今日1日のことを振り返り、貴夜の体の調子や遊と麗華を心配しつつ、これからの自分のことも考えた。
このままおばさんの家にい続けるのは、良いのだろうか? 自分は精霊の子じゃないと否定したが、どうやらこの町では“人”が精霊の子らしい。それも、あまり良くない伝説として語られている。そしてその事実、真実を、おばさんが知っている。今まで聞いたことがなかったが、どうしておばさんがそんなことを知っているのか? おばさんとの会話でいろいろとわかったこともあるが、やはりわからないこともたくさんある。真緒はそんなことを深く考え込み、気がつけば朝の10時を過ぎていた。おばさんもいつの間に地下に下りたのか、リビングや台所にはいなかった。真緒はいつも遅くても8時半には寝ていたので、少しびっくりし、2階に上がった。そしてベッドに入ると、すぐに眠りに落ちていった。
数時間後。ベッドから起きた真緒は、おそるおそるおばさんのところに行き、話しかけた。
「おばさん、おはようございます。あの、その……」
「おはよう。なんだい、夕方からモジモジして。はっきりとしゃべりな」
おばさんはリビングでハーブティーをすすりながら新聞を読んでいた。新聞といっても、ノートほどの大きさでページは少ない。表には昨日のできごとが大きく書かれていた。
「昨日はごめんなさい。あの……私って……まだ、この家にいてもいいんでしょうか? その……同じクラスの男の子に、正体がばれて……他に知っている子もいますし……」
真緒は新聞に書かれている霧雨通りの事件を目にしながら言い、新聞の陰からおばさんの顔をちらりと見た。
「他に、行くあてでもあるのかい? 路頭に迷われる方が問題だよ」
おばさんは顔を新聞に向けたまま話した。
「それは……」
真緒が口ごもる。
「まだ警備隊や町中に知れ渡ったわけじゃない。その子たちも今は誰にも言っていないんだろう? だったら、そう急ぐこともないさ。ここにいて、知れ渡らないうちに一刻も早く帰る方法を見つけるんだね」
「はい。あの……ありがとうございます」
お辞儀する真緒に、おばさんが目だけを向け、軽く咳払いをした。
「それと、今度からはなにかあればすぐに教えるんだよ。いいね? 例えささいなことでも、勝手に判断しない。私に怒られるようなことでも、すぐにだよ。わかったかい?」
「はっ、はい! 本当に、ごめんなさい。気をつけます」
眉を八の字にして、真緒は再度深々と頭を下げ、謝った。




