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「むしろ、本当の話」
「えっ? どういうことですか?」
「事実を虚構にしちまったのさ」
真緒は思考が一時停止したかのように、口をぽかんと開けた。おばさんの言っていることをすぐに理解できなかったが、理解できたとたん、目を大きく見開いて声を上げた。
「え、ええぇっ? そ、それって、本当にあったできごとを、うそにしたってこと……ですよね?」
「ああ、そうさ」
「どうして……」
真緒はそう言った後、はっとして、おばさんを見つめた。
「も、もしかして……おばさんは……なにか、知っているんですか?」
真緒が尋ねると、おばさんは少しうつむいて沈黙したが、顔を上げ、おもむろに口を開いた。
「精霊の子がやってきたのは、なんでもない日じゃない。精霊が暴れたとき、つまりあんたがこの町にやってきたときと同じような日だ。そして、最初は精霊の子だという名前がなかった。見た目は秘人と変わらず、会話ができるから、てっきり秘人だと思われていたんだ」
真緒はごくりと唾を飲んだ。
「だが、見慣れないものを身に付け、秘人の持つ先天能力を持たなかった」
「見慣れないものって……時計ですか?」
「ああ、そうさ。その当時、この町には時計などなかった。いや、それに似たものはあったが、時計ほど正確に時間を表すものはなかった」
「そうだったんだ。じゃあ車も?」
「ああ。秘人は昔、あんなものには乗らなかった。近場は歩き、遠くへは馬車か空を飛んで移動したからね」
おばさんが説明した。少し前まで眠かった真緒の目が、おばさんとの会話で冴えてきた。
「それらが町の秘人の関心を引き、作られ、町に広がった。だが、どのようにしても、この町じゃそれらを動かすことができなかった」
「だから魔法で? 魔法エネルギーを代わりに使って動かしたんだ。じゃあ、あの時計も、私が学園に行くバスも……」
真緒は、玄関と台所の間に立つ黒い柱時計を見つめた。振り子が左右に一定のリズムで揺れている。
「そうさ。それからというもの、もともとあった魔法文明が、さらに大きく発展したんだ。歴史に大きな変化ができるほどに」
「す、すごい」
「ああ、すごいことだったんだ。すごいことをした。だがね……」
おばさんが立ち上がり、台所の方へ行く。棚から陶器のコップを2つ取りだして台の上に置き、タライの水につかった大きな瓶を持ってきた。中には牛乳が入っている。瓶の栓を開けて牛乳をコップに注ぎ、小さなおもりのようなものが付いたふたを引きだしから取った。
真緒はそれがなんなのかを知っていた。それは液体を温める、魔法エネルギーを使ったものだった。少量の水やスープを温めるのに、鍋を使わなくて済む便利なものだ。もちろん保温効果もあって、冷めてしまわないようにもできる。
その小さなおもりがコップの中に入るようにふたをして、おばさんは近くにあった砂時計を取る。
「だが……良くなった文明も、手の平を返す」
そう言って、砂時計をひっくり返し、いつもよりトンッと音を立てて台の上に置いた。




