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地下室はほこりっぽく、光の玉が1つ、天井からぶら下がっているだけだった。そこに、使い古されたソファと、そのソファを占領する大きな灰色のねこと、湿ったベッドと、小さなたんすがある。他に、絵のようなものが壁に1枚かけられているが、なんの絵なのかは色あせているせいでわからない。
真緒は床にうずくまり、おえつをもらした。それをおばさんが冷ややかな目で見つめる。
「あんたって子は、本当にことの重大さをわかってないようだね!」
「わ、わかってます! だけど……」
「けど、なんだって言うのさ? あれほど注意したことを覚えているって言うんなら、どうしてけがをしたんだい! あんたが不注意だったからだろう? え? 違うのかい?」
「そう、だけど……」
やるせなさと自分の未熟さに押しつぶされそうになり、真緒はそれ以上ものを言うことができなかった。ただ、くちびるを強く噛みしめ、必死におえつをこらえるしかなかった。
「こんなんじゃあ、学校に行かせれやしない。そうなったら、どうするんだい? 1番困るのはあんただろうに」
おばさんのその言葉が、真緒の胸をさらに締めつける。頭が痛くなり、ぎゅっとまぶたを閉じると、ある日のできごとがよみがえった。
――数週間前。
その日も空は曇り、真緒を憂鬱にさせた。時間は16時だった。
真緒が2階の窓から外を眺めていると、ふたりの茶色いローブをまとった者が家の真下までやってきて、黄ばんだ巻物のようなものを広げていた。真緒は毎日窓の外を眺めていたが、茶色いローブをまとった者を見るのはこの日がはじめてだった。
コン、コン、コン。扉を叩く音がする。
真緒は足音を忍ばせ、階段の方に向かった。そして耳をそばだてる。下の階にいるおばさんと、茶色いローブのふたりが会話するのをこっそり聴くためだった。
「すみません、こんな早くに。いきなりですが、時野さんでお間違いないですか?」
「はい、そうですが……なにかご用ですか?」
あくびをするおばさんに、茶色いローブのひとりが深刻そうな顔で声を落として話しはじめた。背が高く、やせ型の男性だった。
「実は、少し前に精霊が事故を起こしましてね、今その原因がわからず、調査しているんですよ」
「それは、どんな事故なんですか?」
「それは……精霊に関することですから、具体的には言えませんがね」
話が聞き取りにくく、真緒は首を伸ばした。
「まだ捕まっていないんですよ。なので、聞き込みを――ですが、なかなか――ね」
それでも話が途切れ途切れにしか聞こえない。真緒はぎりぎりまで身を乗りだした。
「そうですか。でも、私もなにも知りませんよ」
おばさんが答えると、険しい表情をしたもうひとりの者が口を開いた。
「すみませんが、その日はどちらでなにを?」
この者も男だった。背がもうひとりよりもさらに高く、体格が大きい。
おばさんは落ち着いた声で話した。
「遠い親戚の家に行ってました」
「そうですか。親戚の家に、ですか。あの……失礼かもしれませんが、ご家族はいらっしゃらないんですか?」
「はい。家族はずっといません。私ひとりです」
そのとき、ガタガタッと大きな音がした。階段の真ん中あたりで、真緒は手すりにしがみつくようにしてもたれかかっていた。




