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1薩摩

バイクレース・パイレーツ


 流星が海に反射する。深い翠色をしたこの海を、俺たちはいつしか『星降りの海』と呼んでいた。

 もし死ぬのなら、この美しい海の底に沈み、永遠に星空を見上げていたいと。

 酒を飲み明かした夜明け。そんなことを言いながら、笑い合っていた。

 『星降りの海』が皆を飲み込むその時までは、俺は陽気な海賊だった……。


 俺の名前はキャプテン★ファブリーズ! 七つの海を股にかけようとしたが、排他的経済水域のお陰で自分の国以外の海に渡れなかった。それどころか、自分の国の領海のはずなのに、他の国に威嚇砲撃されたりと散々な目に遭ってきた。そんな訳でカスピ海を拠点にこれまで海賊行為をしてきたが、つい先日、無印良品団とかいうやたらと体の柔らかい海賊たちが、G難度の技を披露しながら俺の船に乗り込んできて、宝物をあらかた奪っていきやがった。俺達も必死に抵抗したんだが、奴らときたらまるでゴムパッキンのような身のこなしで、攻撃を躱しやがるんだ。終いには手も足も出ないまま大砲を撃ち込まれて、俺の船は海に沈んだってわけさ。


 だが俺達にだって意地がある。船が沈んでいく中、隙を突いて奴らの船に侵入し、奴らのトレードマークである無印良品を全部、歯磨き粉にすり替えておいてやったぜ!


 被害は甚大だった。俺以外の乗組員は全て撃たれ海に沈んだ。船と共に心中することも考えたが、そのとき、岸辺の波間に揺れる海賊帽子を見つけた。あの帽子だけは絶対に守らなくてはならないと直感したね。敵の海賊船から大砲で狙われつつも、俺は必死で泳いだ。間延びするような大砲の音、近くで上がる水飛沫、水面が突然グッと上がる感覚。ああ俺は生涯、あの光景を忘れないだろう。命からがら岸まで辿り着き、流れ着いた帽子を手にした時にはもう、俺の船は『星降りの海』に飲まれていた。それだけじゃない。俺は皆を見殺しにしたんだ。俺は一人で逃げてきたんだ。助けられる命があったかもしれないのに、俺はこの帽子のせいにして逃げ出した。ずぶ濡れの服、この体の震えは、寒さからだけではないようだ。頭の中で大砲の音が鳴り響く。一向に止まない。だんだん視界が翠色に染まっていく。目を閉じると、あの日見た美しい流星群の光景が、降り注ぐ銃弾の雨、機関銃に撃たれ海に沈みゆく仲間の姿に重なる。俺は近くの街まで走り、酒屋に駆け込んだ。浴びるように酒を飲み、獣のように叫んだ。そして何もかも忘れて眠った。


 ……それからだ。俺が船に乗れなくなったのは。

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