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分裂日本  作者: 三等兵P
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北サイド第4話

はい、今回は全く戦闘機が出てまいりません。



白倉少尉と模擬空戦をし、その後何故か東側から侵入した南日本のマークがついたF-14トムキャットを迎撃してから数日後。


仙台基地ではささやかな白根中尉の新『レッドタイフーン』隊隊長就任式が行われていた。


本来部隊長は参謀本部が任免するが、北日本戦闘機部隊唯一のエース部隊である『レッドタイフーン』隊は部隊長の一存で次期隊長を決められた。



「………これを以て同志白根緑亜を少佐に任命する。」


基地司令官が白根中尉に少佐の階級章を渡す。


それを受け取った白根中尉は中尉の階級章を外すと真新しい少佐のそれを左胸の定位置に付けた。


これで白根は中尉から少佐に二階級特進を果たした。



「『レッドタイフーン』隊各員、白根新隊長に敬礼!!」



そう司令官が彼らに向き直って言うと、残る23人は一斉にバシリと敬礼をした。

普段はグダグダでもこういう場にはしっかりできるのがエース部隊であることを素人目からも想像させる。


ほとんどが白根より長く部隊にいるが、彼の元上官である桑原大尉始め第二、第三小隊長も後輩に隊長の座を奪われたとは考えていなかった。


ただ、


「杉菜中佐のようにしっかり頼みますぜ新隊長どの。」


とその3人の大尉の6つの目はそう言っているように白根には感じられた。





「であるからにして、『レッドタイフーン』隊隊長同志白根少佐に告ぐ。」


基地司令官は白根を改まって呼ぶ。


「ハッ、ご命令は何でしょうか同志司令官どの。」


それに白根も改まった口調で返す。



「休暇を取れ。」


「ハァ?」


「いや、休暇を取れと言ったんだが。」


「だが断ります。」



「基地のことなら心配するな。トムキャット事件のような事なら今度旭川からSu-30を装備した部隊が来るからそうは起こらないであろう。だから休暇を取れ。」


「えぇ…………分かりました。白根緑亜以下『レッドタイフーン』隊24名は只今より数日の休暇を取ります!」



結局は根負けして休暇を取ってしまう白根。



「そう、それでいい。何しろ唯一のエース部隊だからな。オーバーワークで失いたくはないからな。」



「あ、そうそう。」


白根以下24人がどう休暇を過ごそうか考えに自室へと戻ろうとしたとき、基地司令官はさらに付け加えた。

「同志杉菜中佐が東京に来ないかと言っている。暇なら行ってやってくれんか。」












東北地方では寒さが激しくなる12月18日の昼下がり。


白根少佐以下24人は工兵隊が驚異的なスピードで復旧させた南北連結鉄道最速の特急で北日本占領下の東京へと向かった。



「よう同志白根少佐、一週間ぶりだな。」


「はい、杉菜中佐こそ一週間だからかお変わりないようで幸いです。」



東京駅に着くと杉菜中佐がホームに憲兵隊の車を数台停めて待ちかまえていた。

寒さに追われるようにホームから車に乗り換えると現在彼が勤務している旧帝国ホテルであったビルに車は入る。



「今は軍政官の同志萬田少将のもとで地元民宣撫工作部長をしているんだがな…………」


そこで一旦言葉を切る杉菜。



冷や汗が白倉ペア以外、22人の顔を滴り落ちる。

杉菜が一旦言葉を切る時は何かろくでもないことが起こる前兆だと、『レッドタイフーン』隊の面々は分かっていたからだ。



「書類片付けるの手伝ってくれ。」



「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」



彼の執務机に溜まった解決済みの書類の大山を見て何人かが悲鳴を上げた。



その量は凄まじく、梶原准尉が引き出しを開けると更に数百枚単位で飛び出し、軍政当局の床を散らかす。

更にデスクマットの裏からは未解決書類が数十枚、ゴソリと出現し杉菜の顔に冷や汗が浮かんだ。



そして萬田少将が表れた。

「同志杉菜中佐、コレはナニかな?」


「あはっはっはっはは……………未解決書類ですっよ……」


「………杉菜中佐、後で一緒にどこかイこうか。」


「………………!!」




そう言いながら萬田少将に肩をがしりと掴まれ、どこかへと連れて行かれる杉菜中佐。






「アッー!」



後に男子トイレからこんな声が聞こえたとか聞こえなかったとか。










そんな杉菜中佐や慌ただしく書類を片付ける『レッドタイフーン』隊の面々を放って白根少佐と桑原大尉はフラフラと東京散策に出た。





そして、片付け終えるまで誰も気付かなかった。








東京

青山墓地付近


17時33分


冬至も近いこの日、日は既に沈み月が出掛かっている。


しかし生憎の曇り空、空を照らす明かりは遮られていた。



そんな中を白根少佐と桑原大尉は歩いていた。


「同志桑原大尉、巷の噂によるとここにはお化けなる物体が出るらしいです。」

白根が何故か桑原に敬語を使うが、これはただの先輩への敬意のため彼は気にしない。


「フィフィ、お化けフィか…………それって、幼女のお化けは出るフィか?」




「……………。」


桑原がいつもの調子のため安心した白根。


だが、



「………ううぅぅ………」

という何やら女性のすすり泣くような声が聞こえた瞬間、


「これはきっと幼女のお化けが寂しくで僕を呼んでるフィ!!今行くからフィー!!」


と叫ぶなり墓地に突入する桑原。


白根はそっちの方がよっぽど怖いと思いながらも後を追うことにした。







墓地には電灯がついておらず、ほぼ真っ暗であり、白根ですら少し恐怖が脳内に生まれた。


(桑原大尉、また面倒事を作って…………)


彼は墓石やその他のものを壊さないように慎重に歩いた。


彼は元々幽霊や怪奇現象を信じていないが、死者のモニュメントを壊すのは故人への冒涜にあたると思ったからである。




「フィフィ、いないフィ。きっと恥ずかしがり屋な幼女だフィ。」


桑原が独り言を言っているが彼は完全無視、寧ろ桑原を連れ戻そうとした。


だが彼は幼女のこととなると戦闘機に乗っている時より敏捷に動く。



「あ、ちょっと!」


白根はそれを阻止しようとしたが、動かなかった。


いや、正確に言えば動けなかった。



「…………おいおい、ウソだろ!?」



彼が動かせない右足を見るとボロボロになった服を着た小学生くらいの少女が彼の右足にしがみついていたのだ。


刹那、幼少期の彼の記憶が鮮明に蘇る。


小学校高学年のとき友達と移動遊園地に初めて行って入ったお化け屋敷。


彼にとっては子供だまし程度のものであった。



その中でドラキュラや狼男に混じって一つだけ出てきた振り袖の幽霊。



彼はビックリするが他の人は驚くどころか見向きすらしない。


まるでそれが存在しなかったかのように。



後にお化け屋敷の係員に聞き、それが本物の幽霊だと分かった時には流石の彼も肝が冷え、数日は自室のドアを開けたらあの恐ろしい顔が自らを待っていると思って震えていた。




今、彼はそれと同じ恐怖に苛まれていた。


その少女顔や黒く長い髪の毛は汚れきっており、あの顔を連想させた。



「…………来るな………来るな………」


彼はうわごとのように繰り返す。


だがその少女は離れない。

その体も冷たく、一度だけ触れた死体そのものであった。



「どうしたフィ!!何かあったフィか!?」



白根の異変に気付いた桑原も変な口癖をつけながら駆け寄る。



「…………桑原、本物の幽霊だ……………」



白根は半分パニックを起こしているためその類の事しか言わない。



「………俺はまだ死にたくない…………」




「待つフィ、落ち着くフィ!」



「………イヤだ、死にたくない………」




だが彼は死ぬことはなかった。



「こうなれは最後の手段…………」



彼は震える手で左腰についた国産の軍用拳銃をとろうとした、その時、



「女の子に銃を向けるなんて許さないフイィ!!」


桑原渾身のタックルを食らい、拳銃を取り落とす白根。


桑原大尉は白根少佐より身長は10㎝以上低く、体重も10kgは軽い。


だが、人間無意識にある筋肉細胞を過剰負荷から守る脳のリミッターが何らかの理由で解除されれば普段の150%くらいのパワーは出るという。


桑原は例え幽霊であったとしても少女を守ろうとし脳のリミッターが外れたのだろう、体格で勝る彼を数メートル吹っ飛ばし砂利の道に叩き付けた。



「大丈夫かフィ、お嬢ちゃん!?」


当然、白根よりその得体の知れない少女の方が優先度は高い。




一方、吹っ飛ばされた白根は、桑原がその少女を愛おしそうに抱き締めてるのを見て更にビビりまくる。


それを見た桑原は、


「白根少佐は酷い人だフィ………」


とブツブツ言っていた。


結局お化けではないことが分かった白根はその少女にようやく近付けるようになった。









軍政当局ビル4階宿泊室



「……全く白根少佐は怖がりだな。」


自らの尻をさすりながら杉菜中佐が笑った。


その意味を瞬時に理解した白根は顔をしかめるが、杉菜は気にせず言葉を繋ぐ。


「墓地にいた戦災孤児を幽霊と勘違いするとは。笑っちゃうぜ。」


そう言って笑うが、また尻を押さえる杉菜。


「梶原准尉、何か痔に効く薬無いか?」


「………引き出しにボラギなんとかっていうのがありますが………?」


その動作が目に余るため目をそらし、何故かどや顔をする桑原を仕方なく見た。

何せ彼の右手にはその少女の左手が握られていたからだ。


(あぁ、何故コイツを法で裁けないんだろうか?)



白根が桑原をとうとうコイツ扱いしだしたことはさておき、その少女の名前は六条真帆。


南日本東京都立第七中学校二年生なのだが、135㎝と低い身長と小学生のような童顔のせいで桑原は当然、白根や杉菜といった面々でも小学生と間違えてしまった。


だが桑原は久しぶりの幼女に大興奮、その異様な光景は周りの軍人・軍属関係なくドン引きしていた。



とうとうそれに耐えられなくなったのか六条真帆は、

「は、放してくださいぃ……」

と小さな声で哀願するが彼は無視、その手を握り続けた。


「うひうひ、今日はいい日だフィ。」


もう、一同は黙っているしかなかった。





「あのっ、同志白根少佐………?」


「梶原准尉か。こんな夜に何か用か?」


基本『レッドタイフーン』隊は男女関係なくペアで一室を使うため白根と梶原は一緒の部屋だ。


そうなると情事が懸念されるが部屋にはそういった類の物は用意されているため、問題無いらしい。



「あの子、本当に雇っちゃって良いんですか?ひょっとしたら…………」


「フフッ、梶原准尉は心配し過ぎだ。どうせ南のスパイだと言いたいんだろう?彼女は泊まり込みで基地に潤いと安らぎを与えてくれるらしい。何せ、身寄りが誰もいないからだと。」


「そうですか………なら少しは安心ですけど……。」


そう言いながらこたつに潜り込む梶原。



そのしぐさは戦闘機の後席に乗る准士官とは思えない、普通の女の子のしぐさであった。


隣の部屋には幼女を白根に雇わせてご満悦な桑原が壁を突き抜ける声でフィーフィーと叫んでいた。


(先輩だけどちょっと空戦訓練でシメないかんな。)



そんな事を考えながら、白根は元は南日本の搾取階級が使っていたであろう高級ベッドに倒れ込む。


(あぁ、お風呂入るの忘れてた………ま、早朝にシャワー浴びるか。)


そのまま彼は朝まで深い眠りについた。

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